淀んだ紅、渦となりて
魔人 ヒュアツィンテ、彼女の元へと辿り着いたガルライディアの視界には、抱き合うように一塊となった謡、陽子、綾生の三人。
それと謡の胸元から生える血色の槍だった。
「――ぁ」
時が止まったかのような静寂の中、ぽたりぽたりと血が滴り落ちる。
言語にならぬ声を漏らしたのはガルライディアだが、驚愕の具合はヒュアツィンテや陽子も同様だった。
「…………ぅそ、どうして……………………………………」
ヒュアツィンテ自身に殺す意思はなかった。
威嚇程度に魔力を放つ程度。
そのつもりだったが、意識が飛んだ数秒間の内に己の槍は友の身体に突き刺さっていた。
手から力が抜け、槍が離れる。
崩れ落ちる謡の身体を、一周回って冷めきった思考の陽子が受け止める。
数歩虚ろな表情と覚束ない足取りで下がったヒュアツィンテは、意識は出来ずとも視界内に収めていたガルライディアの姿を見失った。
「――――ゲェア゛…………ッッ?!」
彼女は数瞬何が起こったのか分からなかった。
轟音と共に腹部にとてつもない衝撃が奔った。
これは事実。
だが、視界が可笑しい。
どうして街を上空から見ている?
(――攻撃一つで空に…………!! 待って、あれは――?!)
驚いている場合ではない。
ヒュアツィンテは全力で防御を固めるべきだった。
彼女の視界に一瞬映った、赤い螺旋。そして、その中心の友にして嫉妬の対象。
それを再度見失った彼女の直感がけたたましい警鐘を鳴らす。
それに従い、魔力を全開にして両腕を交差させて顔面を覆う。
そこには膨大、それもヒュアツィンテをも上回る異常な魔力を滾らせたガルライディアが右脚を引き絞っていた。
ゴォン――――ッ、鐘のような音色。
「ヅ、ァ………!!」
両腕が拉げ、上空40mから射角30度で吹っ飛ばされる。
痛みで暴れる魔力を根性で制御して、両腕を修復。
意識をガルライディアに向ける。
ヒュアツィンテの視界に映ったのは赤の残光だけだった。
過去最高出力の『貫通』がヒュアツィンテの右太ももを半ばから抉り取る。
謡と同等レベルの出血に見舞われたヒュアツィンテに対して、ガルライディアは空を蹴った。
魔力放出によるロケットエンジン的な加速ではない。
それは彼女の母、クリムゾン・アンドロメダを含む極々少数しか行えない、ただの空中を足場にする身体強化の極地の力。
そんな事態の中、ガルライディアの思考を占めていたのは純粋な怒りだ。
――友を殺した。
――殺された。
――替えの利かない大切なものを。
――私の、なのに。
濁り淀んだ魔力。
いくつもの魔力を束ねたその力。
それは彼女の真なる欲望。
ある意味で、収束の魔法少女の本当の力。
それが純粋な殺意を乗せて振るわれる。
相手が友だとかなんて最早どうでもいい。
ここで殺す。
空中での踏み込み。
それによる加速の最中、ガルライディアの背後に赤の円が渦巻く。
高速で回転し、円周上に等間隔で並んだ6点から魔弾が絶え間なく連射される。
『循環魔弾』。
魔力を循環させつつ常時圧縮し続けることで、魔弾を魔力の無駄を少なくしながら高速かつ半自動で連射するガルライディアの新魔法だ。
コンマ1秒の間に10発。
ヒュアツィンテの身体を蹂躙して、彼女の動きを完全に止める。
そこに追い付いたガルライディアの一撃。
『貫通』や『循環魔弾』のように魔法を使うある種の冷静さはあるが、こればかりは実に脳筋的だった。
振るわれる、魔力もエネルギーも全てを乗せた拳。
今度こそ地面に叩きつけられたヒュアツィンテは爆心地と化した地面に半ばから埋もれていた。




