因縁・弐
魔装を用いてツヴァイの魔力弾を切り刻み、グラジオラスは一気に踏み込む。
ツヴァイに近づくにつれて当然密度は跳ね上がっていくが、以前ほどの速度はないので現状特に問題はない。
(…………以前の戦いで落としていった杖の代替品は持ってきたようだが、質は低い。……単純に質の低いものしかないなんてことは無い筈だ………………とするとラウムが与えなかったが一番近そう)
黒い魔力弾を最低限のみ斬りはらいそれ以外を全て躱して、ツヴァイまであと二歩。
一歩、『白亜』を前方を広範囲に覆う。
ツヴァイの4発の魔力弾によって容易に砕かれるが、時間は稼げた。
二歩、瞬間的に魔力出力を全開、魔力放出にて最高速度に至る。
右でのコンパクトな突き、それをグラジオラスから見てツヴァイのギリギリ右側に放って、わざと回避させる。
ツヴァイが動いたのを認識した瞬間に左右の小太刀が空を斬る。
即時交差するようにツヴァイの首を狙う。
寸前で杖をむりやり振り下ろしたツヴァイの腕を圧倒的な衝撃が襲う。
一切のブレなく纏わせた純白の魔力が、杖に流れる黒の魔力を容易に突破して杖本体に刃が食い込む。
「チィ…………、この私がっ」
「どの貴方ですか? この程度では以前未満もいいところなのでは?」
ツヴァイの魔力がより荒々しくなる。黒が弾け、魔装を砕こうと牙を剥く。
冷静さを無くすように仕向けつつ、両手の小太刀で杖を抉り、ついでにツヴァイの腹に蹴りを叩き込む。
「うるさいのよ! 下賤なお前ごときがァ………!」
魔力の奔流。
その力はグラジオラスを地面から引っこ抜き、大きく後退させるほど。
グラジオラスは一般的な範囲の人間の体重の範疇にいるが、それでもそう簡単に魔力の無作為な放出だけで吹き飛ぶ訳ではない。
だというのに吹き飛んだのはツヴァイの魔力量に所以する。
『■■』を除いた『魔人同盟』最大の魔力は伊達ではないのだ。
使い方は壊滅的だが。
ついで溢れるようにそこかしこに飛来する魔力弾の内、子供園と自身とに向かうものだけを限定的に迎撃。
(……ぁあ、子供園への唯一の道が…………、朝は障壁で均して帰りは結に頼んで埋め立ててもら――いや、まずはぶちのめしてからだ)
僅かに苦笑。
無駄な思考は一度捨てる。
血走った目でグラジオラスを睨むツヴァイが右脚を踏み出そうとした瞬間に足元に障壁を展開。
体勢を崩させる。
ツヴァイの足元の障壁を崩壊させて、意識と視界を一時占領。
トン、と軽い調子で踏み込んだ。
グラジオラスとツヴァイの間、小太刀の間合いという狭い範囲に小さいながら強固な結界があまた展開される。
「『白夜裂閃・曼殊沙華』」
「ア、~~~~!!」
二振りの小太刀が夜闇に閃光を刻む。
作用の多くを反作用に加算させ、大きく弾く障壁を周囲に配置。
小太刀での斬撃が敵を通り抜けた後に障壁にぶつけることで斬り返しの速度を跳ね上げる、グラジオラスが持つ超近接専用の連撃である。
魔装を纏った双刀がツヴァイの身体を蹂躙する。
身体強化に回されていた黒の魔力さえも打ち砕き、ツヴァイを防御の上から切り刻む。
連撃から一拍。
大きく刃を引き絞り、白の魔力が瞬いた。
「ア゛アァッッ!」
咆哮一つ。
ツヴァイから放たれた黒の魔力がグラジオラスを吹き飛ばす。
それを小太刀一閃で斬り裂いて、後退を数mに抑える。
この程度ならまだグラジオラスの一足一刀の間合いの内だ。
だから再度魔力放出を――――
豪、と遠方にて圧倒的な魔力が鳴動した。
数kmは離れている筈の地点から届いた魔力による異常な衝撃破が頬を撫でる。
「ガル、ライディア…………?」
「――――!!」
巨大な柱のごとく魔力が滾る。
その色は淀んではいるが、紅よりも薄い色だった。
「――クソ」
――逃げたか。
はっとグラジオラスがツヴァイに視線を向けた。
否、向けたつもりでいたが、そこにはツヴァイの姿は無かった。
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