魔法具 Ⅰ
「はじめまして、ガルライディアさん。私は、見識の魔法少女 セージゲイズ。本名は、眺野 明です。宜しくお願いします」
セージゲイズは、後ろで文句を垂れ流しているエレクを無視してガルライディアに挨拶をした。
「は、はじめまして。ガルライディアこと加集 結です」
セージゲイズの後ろをちらちらと見ながらもガルライディアは返答した。
「ふむ。赤花の子の真名は結というのか」
ひとしきり文句を言って満足したのかエレクが二人の会話に混ざってきた。
「まだ、自己紹介していなかったの?……まさか説明もせずに連れてきたとかそんな事ないわよね?」
直後、エレクは混ざらなければよかったと本気で後悔した。
「いや、それはだな……。と、とにかくっ、我は神崎 鳴音だ。宜しく頼む。とは言えその名は仮のものに過ぎぬがな……」
(どう考えても本名のはずなのに、仮ってどう言う事なんだろ……)
厨二病患者に会うのはこれが初めてなのだろう。
ガルライディアはノリに全くついて行けてない。
さっきからのあれこれで大方察せられたが。
「とりあえず、ガルライディアさんに魔法局に来てもらった、というよりもエレクが連れてきた理由についてを話しましょう」
セージゲイズはエレクの口調などに慣れているのかため息を吐いた後、ガルライディアに向かってそう切り出した。
「ただ、会議室でやると大変な事になりかねないから、移動しましょう。必要な事は歩きながら」
そう言ってセージは2人を促し、歩きだした。
追従するガルライディアとエレク。
「エレク。ガルライディアさんに何を教えたいのか貴方の口から本人に伝えて。もちろん普段の口調で」
セージゲイズは、まずエレクに説明を求めた。
「わかったよぅ。じゃあ、ガルライディア……さん」
「あ、さんとか無くてもいいです。私の方が年下だろうし」
「じゃ、じゃあ、ガルライディアで。まずね、わ、私たちの魔力と、自分の魔力を、見比べて」
そこまで聞いて、ガルライディアは魔力を見比べることができないほど、あることに驚愕していた。
(さっきまでと全然違う⁈なんか凄い途切れ途切れだし。セージゲイズさんが普段のって言ってたし、今のが素なんだろうけど……)
そんなことを考えながらも、自身と2人の魔力を見比べる。
自身の魔力は、身体の周囲を揺れ動いているように見えた。
2人の魔力は、自身のものに見られる揺れがなく、身体に押し込められているように見えた。
「わ、わかったかな。ガ、ガルライディアは、魔力が漏れてるの」
「も、漏れてるんですか⁈」
「う、うん。それだと、魔物に、見つかりやすいし、ちょっとずつ、魔力減っちゃうの」
ガルライディアはそこまでで自分が今から何をするのかを悟った。
だが、それを言う前にセージゲイズから声が掛けられた。
「2人共、着いたわよ」
そう言いながら、彼女は扉を開けて3人は訓練室―以前シミュレーション戦闘をしたのもここである、に入った。
「それで、私は魔力の制御が出来るようにならなきゃなんですよね?」
「そうね。だけどその前に一つ……」
エレクではなく、何故かセージゲイズが応じた。
そして、一度言葉を区切るようにして、
「ガルライディアさんの魔法具を見せてもらってもいいかしら?」
そう言った。
魔法具という言葉は、ガルライディアは聞き覚えがないわけではなかった。
以前、各魔法少女ごとの武器のことを謡がそう呼んでいた。
「魔法具って、二丁の拳銃のことですよね?」
ガルライディアは、己の太腿の辺りを見ながら問う。
「そう。銃の形をした魔法具は魔力を込めると、実際の銃が弾丸を撃ち出すみたいに魔力の塊を撃てるでしょう?だから、それを使って魔力制御を身に付けてもらうことになるわ」
それから、そう前置きをしてセージゲイズは少し誇らしげに言葉を重ねた。
「見識の魔法少女である私があなたの魔法具の事を調べてあげる」
ガルライディアは、セージゲイズに促されるまま、訓練室の端にあるテーブルに二丁拳銃を置いた。
「『魔を垣間見る』」
セージゲイズの宣言と同時に彼女の目元に精緻な魔法陣が浮かび上がり、眼鏡のような形に魔力が成形される。
ただ、彼女の魔力は、透明に程近く見えにくいが。
さらに彼女が持っている本が開かれ、文字が勝手に記されていく。
(綺麗……。じっくりと魔法を見たの初めてかも)
セージゲイズの魔法の美しさに目を奪われるガルライディア。
すぐに魔法陣は消えた。しかし、本に記された文字は消えなかった。
「調べ終わったわよ。魔法具の銘は『フライクーゲル』。稀に類を見る程、実銃そっくりな魔法具よ」
読んで頂きありがとうございます。
漸く魔法具銘が出ました。
元ネタは、ドイツの魔弾の射手から。
伝わるのかな、これ……。




