六つの一人の戦い Ⅱ
グラジオラスは偶々敵の前にいた。
本当に偶々だった。
普段彼女が双葉子供園を訪ねるのは、子供たちの学校が休みになり仕事が増える日の手伝いのため土曜日から日曜日である。
しかし、本日は火曜日。
だから、本当に偶然であり幸運であった。
「――お前、性懲りも無く来るとか、死にたいのか………?」
殺意を孕んだ瞳。
それを向ける相手は双葉子供園の目の前に現れた敵、『流星』シャーロット。
「そちらこそ、後ろ共々塵芥に――――ッッ?!」
ギィィンッッ!!
ツヴァイの意識が子供園に僅かに向いた瞬間に、グラジオラスの小太刀はツヴァイの心臓のすぐそこまで迫っていた。
心臓は魔力の貯蔵場所。瞬間的な魔力放出は一番速く出力も高くなる。
ついでに自分から後ろに跳んだからこそ助かっただけだ。
攻撃を以て敵を後退させ、流線形の障壁を前方に平面の障壁を足元に展開し、グラジオラスは更に魔力を放出した。
バックジャンプで距離を取ろうとしたツヴァイに一瞬で追い付いて、小太刀を一閃、唐竹割。
子供園に繋がる少々急な坂道に突き刺さる。
ツヴァイの右腕からは僅かに血が流れだす。
先の攻撃は魔力を大量に纏わせた手で迎撃したが突破された。
ここなら子供園も狙いづらい。
ツヴァイが体勢を立て直すよりも早く着地して、グラジオラスは小太刀に魔力を纏わせて、一歩を踏み込んだ。
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現れた魔力は6つ。
最後のそれの反応が出たのは、ほんの一瞬。
すぐに魔人側が魔力を抑えた。
ついでに距離が離れていた。
だからガルライディアの到着は多少ながら遅れた。
魔力反応がみられなく、結界などの気配もない。
少なくとも建物への被害は出ていない。
破壊跡や音もしないのでガルライディアの魔人の発見が遅れたのは攻められる要素ではないのだ。
これは誰も予想していなかったことなのだから。
「………ねぇ、綾生ちゃん。少しお話したいな………………」
「降りてこいとは言わねえよ。ただ話がしたい」
謡と陽子。
幸運なのか不運なのか、ヒュアツィンテ、綾生が転移した箇所には彼女らがいた。
(徘徊した甲斐があったが、何話せばいいんだか)
ぶっちゃけた話だ。
陽子にとって綾生は過去の友という自分の中で消化した存在だった。
結や謡ほどの熱量はない。
だが、話がしたいのは本当だった。
まぁ尤も、謡の話だけで時間切れになりそうな気もするのだが。
「答える義務も義理もないのだけど?」
「じゃあ、独り言。綾生ちゃん、ううん、ヒュアツィンテ、あなたは何を妬んでいるの? 私は他人の健康に、だと思ったんだけど、今はかなり激しく動けてるみたいだし違うでしょう?」
「………おいおい」
すげなく返しながらもその場を動かない綾生。
自身らの生殺与奪は相手に握られ、指先一つで骸になりかねない状況ながら、謡はぶっこんだ。
陽子の口元がひくついている。
(こいつ、なんでこうも偶にやんの………?! アホか?)
対面する相手に恐れは無いのか?
そういう思考が生まれるのは綾生との距離感の差か。
兎も角とも、恐怖を喉元で強引に飲み込んで魔人の答えを待った。
合理だけで見れば答えなんて返ってこないだろう。
だが、不思議と彼女らは分かっていた。
かつての友は答えてくると。
「魔力過剰症。肉体、特に魔力回路が異常な魔力量に耐えられずに壊れ、段々と全身を蝕んでいく現代医学ではどうしようもない病。私はそれだった。………………理不尽でしょう? 私と同じように人より沢山の魔力を持っているのにあっちはヒーローでこっちは動くのもままならない憐れな病人?! ふざけるのも大概にしなさいよ!」
彼女にとっては僅かに漏れ出た魔力。
だが、それは一般人にとっては驚異的な風圧を生む。
不意打ちで身体が浮いた謡を、身構えていたがために数歩分下がる程度で済んだ陽子が支える。
急な突風に目が渇くが、無理にでも魔人をみつめる。
「――だから、私はっ………………ぁ、れ?」
叫びが途絶する。
異様だ。
謡の肩を強く握って、陽子は目を凝らす。
黒赤の魔力に何かが混じったのが見える。
少女らの視界から魔人が消えた。
陽子の腕に衝撃が伝わる。
「――ぁ」
その声は、現着したガルライディアから。
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