六つの一人の戦い Ⅰ
「まだ残ってはいるんでしょうね。……………………クソが」
悪鬼羅刹の如き形相で、5m近いガゼルのような魔物を睨むクリムゾン・アンドロメダ。
眼前の魔物からは魔物特有の淀んだ黒に混じって、灰色の魔力が僅かに滲んでいる。
6つの魔力反応。
その内の一つは、異質だった。
魔人の魔力反応は人の魔力に魔物の魔力が混じったようなものであり、人に近いのだ。
だが、その魔力反応は人混じりの魔物寄り。
より正確には、魔人の魔力に含まれる魔物のそれの割合よりも人成分が少なく9割は魔物の魔力だ。
それだけだったらアンドロメダは魔人の元へと直行していただろう。
娘とそう変わらない年頃の子供たちに人殺しをさせるぐらいなら自分で葬る。
けれども、問題は魔物に混じる人の魔力だった。
それは変速の魔法少女 エーデルギア、今は亡きアンドロメダの無二の親友のものだったのだ。
それを彼女が間違えるはずがない。
これは、これだけは彼女が成せばならない。
罪の清算もあるが、悍ましい行為に接するのは大人の役割だ。
死した人の魔力を魔物に混ぜる実験よりも魔人の方が幾分かはマシだろう。
どっちもどっちではあるが。
そんな言い訳じみた思考を打ち切る。
「――、ふぅぅ……」
大きく深呼吸。
腕を引き絞り、蹴り足に力を込める。
夜闇を深紅の閃光が照らした。
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エレク、セージゲイズ、ファルフジウムの三名は別々の場所にて、同様に初見の魔人と相見えていた。
エレクに対するのは三十台近く見える肩甲骨程まで白髪交じりの髪を伸ばした女。
セージゲイズとにらみ合っているのは隈の酷い五十代の男。
ファルフジウムの正面には崩壊した家の瓦礫の上に座る十歳程度の女児。
「『幻影』ハル。現世から去りましょう?」
エレクの紫電に押されながらも、ハルの黒灰の魔力は確かに揺らめく。
名乗られたのならエレクのやることは決まっている。
「『紫電』の魔法少女 エレクトロキュート・イグジステント。我が名を冥土の土産とするといい」
例え人を殺すことになっても、止めなければならない。
ここには守りたい人がいるのだから。
「『就褥』クラッシュ。この社会を壊しに来た」
「未成年じゃなくて国に言いなさいよ…………。害を及ぼさないのなら殺さないわ。その短い命もっと有効活用したら?」
「これが有効なんだよ、餓鬼が」
毒吐く老いぼれだろうとなんだろうと屠るのみ。
家族が覚悟を決めたのだ。
共に地獄へ行かずどうすると言うのか。
「あたしは『収奪』プラダって言うんだぁ。おねえさん名前は?」
「ファルフジウム。いい子にするなら痛くしないよ?」
「ふぁるふじうむ、うん。ありがとう。――じゃあ、殺すね」
子供だろうがなんだろうが人に仇なすのなら、殺してでも止めるしかない。
まだ大切な人と一緒に居たいから。
己の欲を貫くだけだ。




