始まりの夜
午後10時半頃、この時間帯には似合わぬ少女が二人。
こそこそと歩く、逆に目立っている少女達は、魔法少女に縁のある者達だ。
「謡、やめたいならやめていいんだぞ?」
「何回も言ったけど、私がやりたくてここにいるんだよ。陽子ちゃんこそ、大丈夫なの?」
謡と陽子は今日も今日とて夜闇を進む。
いつか友と遭える日を目指して。
だが、彼女は小学生の身の上。
深夜徘徊を親が許すわけが無く、彼女らは無断で外出を繰り返していた。
だからこそ、謡が自身のことは兎も角として陽子の状況を案ずるのは当然であるが……
「綾生に会いたいってのに嘘はないさ。外に出るのはうちは親が寝るの早いし、私の部屋はリビングより玄関に近いからな。割となんとかなるもんだぞ」
「……あぁ、そういえばそうだね。………………私はそろそろ危ないかも。最近お母さんに、早く寝なさいってよく言われるんだよね」
「そりゃ健康優良児が突然夜更かしし始めたらそうなるだろうな」
「むぅ……」
22時にはほぼ確実に夢の中にいる謡が、ここ最近は22時から活動を開始しているのだ。
流石に親、特に専業主婦にはバレる。
陽子としては寧ろそんな健康児が深夜徘徊して体力が保つのかが心配だった。
だが、そこは謡自身よく調節しているのか、徘徊する日を決めて体調管理はきちんと行っているようだ。
「――さて、いつになったら逢えるんだか」
「というかそもそも綾生ちゃんが来るってことは、この街が襲撃されるってことだから来ないならそっちの方が安全ではあるんだよね」
「合理と感情とはどうしてこうもかみ合わないんだか………………」
小学生の台詞ではない。
10年少々の人生で何を学んだら、そのような発想に行きつくのだろうか。
実は綾生がよく昼間に街を歩いていることなんて、知る由も無く。
少女は二人、なぜ通報されたり補導されたりせずに済んでいるのか本人らも知らずに歩みを進める。
_________________________
謡の言葉がフラグになった訳ではない。
だが、『魔人同盟』の腕はすぐそこまで迫っていた。
パリン、と硝子が割れる。
街を覆う大結界が頂点を中心に大きく砕け、結界に風穴が開く。
ついで弱まった結界内に禍々しい魔力が六つ現れる。
その気配はすでに眠っていた者含めて魔法少女達の意識を急激に加熱した。
街の五か所から七色の魔力が迸る。
その内六色がそれぞれ禍々しい魔力の元へと駆けた。
残りの一色、清水 創美が変身するベンゾイルは魔法局支部の自室にて結界の応急処置を開始する。
他の六名は、それぞれ覚えのある魔力を感じた者はそこへ。
因縁の見当たらぬ者は他の場所へ。
夜の帳を閃光が彩る。
この日、日本には、特に魔法少女達の間に激震が走ることとなる。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




