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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
罪の所在

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悩め若人よ Ⅲ

調子に乗り過ぎました。

 爆ぜた魔力が空を撫でる。

 暴風の中心から訓練室の床を削りながらファルフジウムが飛び出してくる。


 彼女の手の中の『フォルテカリバーン』の柄のソケットには携帯が刺さっている。

 ガルライディアの追撃を迎撃するために『Brave・Blade』を放つ準備をしていたのが功を奏した。

 なんとか『衝撃インパクト』のダメージを零に抑えてガルライディアから距離を取れた。


「ふぅ……」


 大きく息を吐きだす。

 精神的に不安定になっているとはいえ、小学生にボコボコにされるのは流石に堪える。

 大人げないが、負けたくはないのだ。


 踏み込みの瞬間の魔力放出。

 魔力量はそう多くない。

 セージゲイズのような技術もない。

 ならば使い方を工夫するほかない。


 ガルライディアから放たれた魔弾があたる直前に魔力放出を挟み、ダメージを最小限に抑える。

 実戦だったら片足位は持っていかれているかもしれないが、今はそれで十分。

 今までは薙ぎ払うばかりだったが、それではいずれ負ける。


 まずは接近するところからだ。

 ここで重要なのはガルライディア自身は近接をある程度鍛えている影響で自ら前に出ることが割とあるということだ。


 今回もそう。

 我流ガンカタにて応戦しようとしたガルライディアに向けて剣に携帯を接続した状態でコンパクトな蹴りを放つ。


 魔力量から威力を把握して、片足を杭のように打ち付けて受け止める。

 左手の装甲ごしに、紅と黄煌が鬩ぎ合う。


 ファルフジウムが片手で『フォルテカリバーン』を振りかぶる。


 ――『Brabe・Blade』!


 黄煌が迸る。

 ガルライディアが迎撃とした魔弾に僅かに勢いを落としながらも振り下ろす!


 だが、戦闘密度の差か。

 その程度ではガルライディアを捉えることは出来ない。


 剣を振るう関係上、ファルフジウムは蹴りに用いた脚をすでに地に着けていた。

 だからこそ、ガルライディアは両手が空いている。


 左手でファルフジウムの右手首を抑えて、半歩右にずれながら右手で脇腹を殴る。

 同時に『衝撃インパクト』を放って、ファルフジウムを再度吹っ飛ばす。


 硬い訓練室の床を転がりながら、ファルフジウムは奥歯を嚙み締めた。


 弱い自分が嫌いだ。

 現実から逃げて、魔法に縋った。

 けれど、縋った翼の力は弱く使い方も酷く拙い。


 自分の三分の一も魔力に触れていない年下の少女に一方的に負ける始末。


 家を出ていく時に母親も無理やり連れだすべきだったのではないか、と時折自身に問う。

 情報を集めるためと建前(理由)があった。

 だが、ファルフジウム、美勇には本当は分かっていた。

 母親には僅かだが、父親への情が残っていたことを。


 今でもどうすればよかったのかは分からない。

 母親がどうあれ彼女自身は父親のことなど大嫌いだ。

 それに従うのはいい。


 でも母親の想いは否定できない。

 それが少しモヤモヤとする。


 考えないようにしていても、ふとした瞬間湧いて出てくる。

 魔力()を振るっているのに、現実が消えてくれない。


「ア゛アアァッ!」


 魔力を思い切り込めて、薙ぎ払う。

 現実諸共ガルライディアを吹っ飛ばす。


 両手の『フライクーゲル』を交差して、飛来する魔力の刃を受け止めて、そのまま砕く。

 砕けどもその衝撃は小学生の身体を吹っ飛ばすには十分。


 数メートル床を削るように後退して、再度襲い来る三度の魔力刃を魔弾にて撃ち落とす。


「シィ…………!!」

「フ……ッ!」


 突進しながらの右腕一本の刺突を左手の拳銃を叩きつけて弾く。

 そのまま拳銃を突きだして魔力を充填。


 ファルフジウムは眼前に迫る拳銃を左手でかち上げる。

 魔弾が天井目掛けて放たれて、ガルライディアの体勢を崩す。


 互いに右手一つで武器を振るう。

 ガルライディアが魔弾を放つ寸前にファルフジウムの逆袈裟が『フライクーゲル』の一丁を弾き飛ばす。


 ファルフジウムは斬り返しで決着がつくと油断した(・・・・)

 本来体勢を崩した状態で武器を失ったら戦力的にはかなり弱体化する、それは事実だ。


 だが、それだけだ。


「――がっ…………ぁ!」

「『擬・衝撃(ニア・インパクト)』!」


 右手でのアッパー気味の打撃をファルフジウムの腹に捻じ込んで、『フライクーゲル』無しでの収束の甘い『衝撃インパクト』を撃ち込む。


『フォルテカリバーン』を取り落とす。

 携帯も接続したままだ。最大火力は出せない。


 だが、ガルライディアの性格と今回の状況から次の行動は読める。

 右手に魔力をかき集める。


「ハアッ!!」

「ラ゛アァ!!」


 互いに精神的な余裕はなかった。

 胸に詰まったモヤモヤを解消するためにお互いに向ける八つ当たりだ。


 だからだろうか、二人の最後の一手は右ストレートだった。


 一撃だけの打撃戦。

 結果は互角に終わった。


 ファルフジウムの後先考えない魔力の一極集中は『累加』も合わせて、ガルライディアの最大収束状態の打撃と同出力に落ち着いた。


 お互いの打撃の衝撃で揃って靴底で床を削って、止まる。


 先に倒れこんだのは、ファルフジウムだった。

 態と大の字に倒れて、力を抜いた。


「あはは………!」

「どうしたんですか?………ふっ」


 突然の笑い声。

 問うたガルライディアも堪え切れずに息を漏らす。


「状況は一個も変わってないけど、スッキリした!」

「そうですか。ふふ、はは………、それは良かったです」


 そのとき彼女らの心を占めていたものは同じだったのだろう。

 八つ当たりをしあった仲ではるが、暫く彼女らの笑い声は絶えなかった。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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