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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
罪の所在

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砕くは白磁

 バチリ、と雷電が迸る。

 雷光が向かう先にいる少女は異様な動体視力で展開した障壁の位置・形状を変化させる。


 障壁は小動もせず、障壁を操った少女は雷電を放ったもう一方の少女に眩しさに細めた瞳を向けた。


「手加減はいりませんよ、エレク。そう簡単には死にませんから、全力で来なさい」

「――――。了解した」


 バレていた、というよりは分かり切っていたことだった。


 エレクの雷撃は簡単に命を奪い去れる。

 ただでさえ電気というものは対生物に於いて最強クラスの性質だというのに、彼女のそれは次元が違う。

 彼女の雷の余波は異次元の領域であり、直撃した箇所から30m以内にいる魔力の弱い生き物なら即死させられる。

 この場合の魔力の弱い生物には一般的な人間も含む。


 そんなものを連射できるのが、紫電の魔法少女 エレクトロキュート・イグジステントと呼ばれるただの少女だ。

 当然対人使用には躊躇が入る。


 だが、彼女に今現在対面しているのは単独での戦闘力はAランクの魔法少女の中でもトップクラスの存在で、防御性能特化の先輩魔法少女であるグラジオラスだ。

 遠慮はいらない。


 エレクは忘れない。

 オフの日にたまたま明と守美子との三人でいったバッティングセンターで140kmの打球を片手で剣を振るうみたいに打ち返していた魔力強化無しの守美子の姿を。


 パリッ、と少女の周囲を雷光が舞う。

 纏う雰囲気が変わったのを視覚から把握してグラジオラスは魔力の循環を早めて、ゆるく構えを取る。


 エレクが掲げた長杖型の魔法具『ケラウノス』が唸りを上げる。

 杖の先に括りつけられた『加速』の魔石が光り輝く。


 豪と閃電が奔る。

 エレクの視線、魔力の動き、呼吸、彼女から伝わってくる情報全てから攻撃位置を予測し、グラジオラスは重心を思い切り落としながら『白装束』で身体を守る。


「――ッ!」


 両足からの魔力放出を以て、瞬間的に加速。

 エレクとの距離を一気に詰める。


 グラジオラスが振るう二振りの小太刀『唐菖蒲』が白く染まる。

 近接戦闘を専門とする魔法少女の到達点が一つ『魔装』。

 極短時間ながら彼女は両の武器にてそれを実現していた。


 エレクが放つ3条の雷電。

 一つを躱して、他の二つをそれぞれ切り裂く。


 次いで展開された雷の檻。

 段々と狭まるそれに対して、グラジオラスは左手の一振りを鞘に納めて、右手の『唐菖蒲』を両手で掴む。


「『皚皚睡蓮』」


 障壁にて小太刀を覆い刃渡りの延長を行い、薙ぎ払う。


 元々障壁魔法は魔力の密度が魔法の中ではかなり高い。

 エレクの雷は多少の密度差なら魔力自体の力で粉砕できるが、グラジオラス程の障壁使い相手ではそう簡単にはいかない。

 特に今回はエレクの魔法の魔力密度を見てからのグラジオラスの障壁魔法。

 打ち破れない訳がない。


 檻を切り裂いて、更に一歩距離を縮める。

 エレクの応手は地面を滑る前方全てを薙ぎる雷火。


 それに対して、グラジオラスは一度鞘に納めた左の小太刀を自身の前方の地面に投げつける。

 小太刀が地面に落ちた瞬間に、彼女は跳び上がる。


 エレクが放った床全てを奔る雷電はグラジオラスの投げた小太刀に阻害され、グラジオラスへの到達を僅かに遅らせられる。

 けれども、エレクはそれに焦ることなく頭上に意識を向ける。


 グラジオラスはエレクの意識が頭上の自身に向いたのを見て、前以て準備しておいた魔法を発動。

 エレクの杖に何重もの『白亜』で縫い留める。


 魔力の塊である魔法具、それも他人の魔力を拒む力の強いエレクの『ケラウノス』には通常直接魔法をかけることは叶わない。

 だが、エレクの意識が僅かながら逸れたことと、障壁魔法の性質とが合わさり、ほんの一瞬、エレクの魔法発動を遅らせた。


 それだけの時間があれば十分だった。


 地面に降り立ったグラジオラスの小太刀がエレクの首元へとゆるく添えられる。



 _________________________




「――また、負けた」

「私の方が歴が長い…………とはいえエレクも3年は超えているので、躊躇(・・)の問題かと」


 基本的に魔法少女の戦闘能力はランクを参照できる。

 グラジオラスとエレクとは共にAランク。

 だが、グラジオラスはAランクトップクラスの戦闘力を持っているのに対して、エレクはSランクの打診が来ている。


 普通に考えて、エレクが勝つ。

 大体魔法少女同士の戦いは魔法の展開速度が早い方が有利なのだ。


 それに加えて、グラジオラスの攻撃は直撃しないとダメージとなりえないが、エレクは掠りでもすれば戦闘不能になる。


 この状況でグラジオラスが勝つのは何が理由か。


 その答えがグラジオラスが言った躊躇の話。


「…………躊躇?」

「ええ。エレクは魔法の対人使用への躊躇いが強いのですよ。私はこの街の中では躊躇が一番ないので、特に私達の間ではそこの差が大きい」


 躊躇は魔法発動を妨げる。

 だから、負ける。


 エレクの躊躇は、人間全てに及ぶ。

 当然のことではあるが。


 対ラウムなら問題はないが、魔人と戦うことになればそうはいかない。


「それが悪いとは思いません。それどころか、とても大事なことです。…………なので、躊躇しながらも勝つ方法を探すことをお勧めしますよ」


 グラジオラスの言葉はエレクの心に突き刺さる。

 だが、それだからこそ考えなければならない。


 彼女は魔法少女である前に、人間・・なのだ。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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