必然のルペルカリア
加集夫婦は鞭は使いません
2月10日の日曜日、結は母親である香織と共に街に繰り出していた。
4日後のバレンタインデーのための買い出しである。
なので、昌継は家に置いてきた。
「私はチョコケーキにするつもりだけれど、結はどうするか決めたの?」
「……ぅ、えと、タンマ」
別に結に意中の相手がいる訳では無い。
香織が昌継用のものを用意するのに乗じて結も父親へのチョコレートを用意するつもりなのだ。
だが、どうすればいいのかが良く分からない。
溶かして整形のみでも昌継は確実に喜ぶ。
それは結にもなんとなく分かっている。
しかし、それでは彼女の拘り癖が許さない。
なにか、母親とは違う形で多少は手の込んだものを――
「あ、生チョコってつくりやすいんだっけ?」
「いいんじゃない? 昌継さん好きよ?」
出来は兎も角、生チョコの工程はそう多くない。
ざっくりと言えば、細かく刻んだチョコレートと熱した生クリームとをよく混ぜて冷蔵庫で冷やす、これで出来る。
生クリームの量、温度や混ぜ方で出来栄えは変わるが、割と簡単につくれるものだ。
更に昌継は既製品のチョコレートの中では生チョコを好いている。
そうとなれば用意するものは決まった。
「家にオーブンシートとかってある?」
「残ってるわよ。生クリームは無いわね」
マギホンで作り方を検索した結は、多量の板チョコを籠に入れている香織に問いかけた。
香織はバレンタインでつくるものを考えている時に家の戸棚を漁って、使えそうなものを把握していたために一切の迷いもなく結にこたえる。
「どうせなら多めに買いましょう。ケーキにも乗せたいし」
「どれぐらい必要かなぁ?」
「パッケージにかいてあるだろうからまずは探しましょうか」
(確か料理にも使えたはずだし、余ってもいいから多めに買っておくべきかしら?)
この元最強の魔法少女、割と雑なのだ。
拳で全てを破壊してきたせいなのか、本来の性分なのかは兎も角として分量などは本当に適当なのだ。
本来なら菓子づくりに一番不向きな考え方だが、一度失敗してからは菓子づくりなどレシピがあるものは気を付けている。
だが、ケーキ本体でなくその上に乗せるクリームの量は自由。
必然的に雑な思考回路が顔を出した。
今回に関してもクリームを料理に用いたことなどないのに、だ。
料理に関してはレシピがあるのでなんとかなるだろうが。
「…………お母さん、余分にはいらなくない? 1個少なくても足りる筈だよ」
「そう? じゃぁ、いいか」
今日は結がいたために量が異常にはならなかった。
紅の馬酔木は本当に感謝した方がいい。
そんなこんなで昌継は妻作の出来のいいチョコケーキと娘作の若干硬い生チョコというちょっぴり食べにくいものを貰った。
職場で食べようとしたら独身の同僚からの怨嗟が凄まじかったと後に彼は語る。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




