すれ違い
高校生に見える実年齢小学生の少女、魔人ヒュアツィンテこと白川 綾生は髪をハーフアップに纏めて街を歩いていた。
今は平日の午後2時過ぎ。
万一にも小学生や大人と遭うような時間ではない。
だから、かつての友人や父親は問題にならない。
唯一問題な母親は今どき珍しい専業主婦だが、ヒュアツィンテは家や母がよく利用していた店に近づかないようにしながらも、街を徘徊していた。
ふと、立ち止まる。
「学校…………」
かつて通っていた小学校が目と鼻の先に見える。
数秒懐かしい校舎を見つめて、彼女は自嘲するように鼻を鳴らした。
「今更未練がましい、な」
今でもふとした瞬間に思い出す。
あの騒がしくも暖かな日々を。
「うたちゃん達、元気にしてるかしら…………?」
弱い自分を隠すための鎧は誰に聴かせるわけでもなくとも僅かに染みついている。
だが、それ以上に彼女の心には思い出が染みついている。
次の戦い、それによってこの校舎も見納めになるかもしれない。
だからだろうか。
ずいぶんと長く見つめ続けた。
「行こう……………………」
後ろ髪を引かれる。
それでも、彼女は一度も振り返ることは無かった。
もう、立ち止まることは出来ない。
少なくとも、次の戦い以降、彼女は完全な人間の敵となるのだから。
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「――…………ん?」
窓の外、校門のところに誰かの姿を見た。
春日部 陽子の頭の片隅に何かが突っかかる。
だが、それがなんなのかは思い当たらない。
(絶対に見たことがある筈なんだがなぁ…………。分からん)
「陽子ちゃん、聴いてる?」
「聞いてるよ。徘徊はしてるが成果は無く、おばさんに怪しまれてるんだろ? 止めるか無視するか頻度減らすかから選ぶしかないんじゃね?」
「説明したら余計に止められちゃうよねぇ。……どうしよ?」
ヒュアツィンテに接触する為に始めた夕方から夜での徘徊。
当たり前だが、親には怪しまれる。
陽子の家は謡の家よりも放任主義なので今のところは問題にはなっていない。
恐らくばれている、というのが陽子の認識だが。
そもそもヒュアツィンテが魔人ヒュアツィンテとして魔法局に認識されている格好で街に来るのは攻撃の時だけだ。
それ以外に街を訪れる時は結達や親達に合わないような時間が基本だ。
正直彼女に安全に接触するには、学校をさぼることが必須条件である。
それをすれば親には露呈する。
そして、それをしても遭える条件が整うだけで、遭えるわけでは無い。
彼女らが自分で出来る範囲で行えることが少なく、そしてヒュアツィンテはそれを踏まえて街に出没する。
9割9分逢うことは叶わない。
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