血槍を以て
「――これは、どういうことだ。ヒュアツィンテ」
「どうもこうもないでしょう? 分かっているくせに」
ヒュアツィンテはシャーロット達の居住地から自身の拠点に戻った後、ラウムを呼んだ。
要件は決まっている。
「シャーロット達の扱いについて、と私の計画について」
「…………あぁ、漸く気が付いたのか」
溜息でも吐くかのような態度。
人のことをとやかく言える立場にないヒュアツィンテでも、感じた嫌悪感に眉をひそめた。
「お前以外の魔人は全て魔力に乏しい人間がベースだ。そのような人間の魔力回路は脆弱極まりない。そもそも、魔力回路というものは幼少期から長い時間、微弱な魔力からゆっくりと鍛えるべき代物である。ここまでは良いな?」
「あなたが人を魔人化させるときに改造するのは、魔力の出力と身体能力、肉体強度。改造の過程で多少回路自体の強度も上がる、だったかしら」
肯定代わりの追加の確認。
これについては説明を受けていた。
だが、それではシャーロット達の魔法少女をも超える魔力量に説明が付かない。
「お前は私が魂への干渉を可能としていることを知っているだろう? 魔力は魂を起源とする力だからな。この程度造作もない。そして、魔力の増大に関しては奴らが望んだことだ。それが何を意味するのかも説明したのに、だ。責められる謂れは無いぞ」
「…………ッ」
今のところ反論の余地は無い。
「じゃぁ、私の計画の時は、魔力量の増大は無しって出来るのね?」
「当たり前だろう。前にも伝えたが、魔力量の増加はオリジナルだ」
ならば、一旦は良い。
だとすると次だ。
「私の魔法なら、シャーロット達の状態を改善できる?」
「理論上はな」
返しは雑に。
ラウムは正直これ以上受け答えする気は無い。
ただ、このまま突き放したらヒュアツィンテが不都合な行動をしかねない。
「そもそもの問題は、碌に鍛えられていない魔力回路だから…………回路自体の強化か周辺組織の強化とかでいけるかしら?」
「回路周辺部を強化しようと回路から漏れ出た魔力には無力だ。どこまでいっても生物の肉体である以上、限界もある」
自分はそうならないと言おうにも、ヒュアツィンテは生まれつき魔法少女を超える魔力を保有していたのだ。シャーロット達魔人とは最初から回路の強度は桁が違う。
深い思考の海に向かっていったヒュアツィンテを尻目に、ラウムは小さく嘆息した。
一旦疑念は薄れた。
そして、もう一つ。
(この分では、回路以前の問題には未だ気が付いていない。好都合極まりないな)
単純な話だ。
魔人として人間の肉体を変える魔法は強引な強化である。
魔力以前に強引な強化を施された肉体が長く持つわけがないのだ。
魔力を扱わなければ、5年は保つ。
だが、それまでだ。
ラウムに人に配慮するような精神性は無い。
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