残骸
「…………魔物に群れを組ませる場合、数を絞れば強く、増やせば弱く……………………。いや、素体の魔物次第でも影響はあるか。単体で強い魔物を大量に群れに出来たら最高だけど、それはやっぱり難しい。というより、不可能に近いようね」
山奥の薄暗い建物、その中でメモとにらめっこ状態のワインレッドのドレスの少女。
名乗った名は魔人 ヒュアツィンテ。ガルライディア達のかつての友、白川 綾生その人である。
テーブルに置いてあったコップの中身を呷って、代わりにメモをほっぽり出す。
「手詰まりね。魔物の群化はこれ以上発展性が無さそう。――となると、次は……………………」
次は、なんだ。
最初は単純な強化。
次は、部位ごとの強化。
その次は、針の射出などの性質の追加。
そして、現状の群れの形成。
どれもこれも現状打ち止め状態だ。
性質の追加などは、徐々に数や追加する性質の自由度が上がったりしているし、強化系は幅が広がってはいる。
だが、それはヒュアツィンテの魔力制御力が向上したからこそだ。
そういうのではなく、彼女は新しい分野を試したかった。
だが、現状良い案が出てこない。
「クリムゾン・アンドロメダのような強化と再生を出来るようにする…………? いや、あれは魔力特性に由来するものって話だし、ラウムのあれは私が勝手にやれるものではない。……………………」
そこまで考えて、少女は笑みを深めた。
出来るかは分からない。
分の悪い賭けではある。
だが、彼女のその発想は実現できれば、可能性は無限に等しい。
――――それはそれとして、だ。
久しぶりに街に行こう。
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ヒュアツィンテはドレスではなく、一般的な衣類に身を包んでかつて住んでいた街を訪れていた。
帽子に伊達メガネ、普段は下ろしている髪もポニーテールに。
これで結以外の魔法少女には殆どばれないだろう。…………ゼロ距離で注意深く魔力を探られない限りは。
ヒュアツィンテの現状の魔力制御では、一般人っぽく、具体的には、警報はならず、離れれば分からない程度には偽装できてもセージゲイズと至近距離にいたら一発でばれる程度が精々だ。
結には顔でばれる。
昔から何故かいらないところで鋭かったのだ。
こうなってから、何度もあってるので結は誤魔化せない。
それでも、時折街を訪れている。
懐かしさを感じるからか。
それは完全には否定できない。
けれど、本当は違う。
忘れないようにするためだ。
時間が経つに連れて僅かずつ薄れていく憎悪を。
己が思いを。
罪を。
だから彼女はリスクを冒してでも、かつての道を辿る。
家には近づけない。
うかつに思い出の場所には行けない。
もしかしたら、誰かに遭うかも知れない。
その時、みんなはどんな顔をするだろうか?
本音を言えば、少し怖い。
でも――
(もう、止まれない…………。止まってしまったら――――――)
帽子ごしに感じる日差しがやけに眩しく感じた。




