小さく暗く
・昨年夏ごろに現れ始めた魔人、その一人である「ヒュアツィンテ」は綾生である。
・彼女が以降街に姿を見せたのは、恐らく二度。
・一度目は、初めて姿を見せたとき。夕方から夜に。
・二度目は、深夜帯。ガルライディア、グラジオラス二名と交戦。後に逃走。
・赤いドレスに同色の槍。
・特性は不明。映像を見た限り、金属操作や生物系と予想される。
――――――――――――――――――
「――今のところは、こんな感じかな」
「こっちも調べたけど、そんなでいいと思うぞ。…………で、これどうすんだ?」
本棚に囲われた一室のデスク上のノートパソコンの文章作成ソフトにざっくりとまとめられた、魔人ヒュアツィンテこと白川 綾生の情報。
それは一般人が集められる限界以上のものであった。
それをまとめたのは、彼女の古い友人である謡と陽子。
謡の家に陽子が訪ねたかたちだ。
どうするとは、情報をまとめたは良いが、これ以上出来ることが出来ない為に出された問い。
「……………………どうにかして、会う」
「どうにかって? まさか戦ってるとこに首突っ込むつもりか?」
「それはしないけど……」
馬鹿を見る目――実際にやろうとしていることは馬鹿なことなので比喩ではない――から、ふいと視線を逸らす。
謡にだって分かっている。自分がどれほど危険で馬鹿げたことを言っているかなど、分かり切っている。
それでも、これは心の問題だ。
「じゃあ、どうすればいいの…………?!」
「落ち着けよ。はっきり言って危険行為どころか自殺行為と大差無いことをしようとしてんだ。せめてもう少し細部を詰めねぇとな。――ま、最大の問題のどう会うかは細部も何もあったもんじゃないけど」
自身の行動が他者のめにどう映るかも、実態も分かっている。
だからこそ、余計に落ち着いてはいられない。
ガタリと椅子を蹴飛ばすように立ち上がる謡のかたを緩く抑えて、冗談めかす陽子。
問題である「どう会うか」に関しては、彼女達から出来ることは無い。
どうしても受け身でしかあれず、よしんば向こうから来ても、彼女らよりも魔法少女の現着の方が早い。
魔法少女が現着したら十中八九戦闘になる。
そうなれば、戦う力なぞ微塵も持ち合わせていない少女ではどうすることもできない。
それどころか、ただの足手まといにもなりうる。
再三に渡ってそれは言っていて、それでもどんどん余裕を無くしていく謡に対して、陽子が取れる手は一つだ。
「方法が無い訳じゃない」
「それは…………?」
「勿論リスクはあるぞ? 多分死にはしないが」
ぶっちゃけた話、気休めで時間稼ぎだ。
謡はそれでも聞かざるを得ないが。
「深夜徘徊だ。真面目ちゃんには思いつかないよなぁ」
「ちょっと陽子ちゃん!」
揶揄うように、煽るように。
それはそれで問題行動ではあるが、戦場に生身で小娘が突っ込むより万倍マシだ。
「――で、やるか?」
「……やる」
「オッケイ。じゃあ、動く時間とか決めるか」
悪だくみの始まりだ。
うそぶくように、精一杯悪ぶって、陽子は僅かな悔しさを飾りで覆い隠す。
(私らに魔法少女の力がありゃあなぁ……………。いや、謡のやつは躊躇しちまうかな?)
兎も角、状況はギリギリだ。
自身だって会いたくないわけでは無い。ただ、それよりも謡に降りかかりかねない危険の除去が先だ。
溜息一つ。
彼女は純粋な友人の誘導を再開した。
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