噂と来歴
結の魔力制御の訓練は一応順調だった。
毎回毎日明に穴付きの魔力塊を用意してもらう訳にもいかないので、自宅では全面を閉じた迷路状のオブジェで代用している。
今は、訓練室にてセージゲイズとの格闘兼制御訓練の最中。
走り回りながらの格闘戦にて、ガルライディアに課せられたのはセージゲイズの打撃を一撃も貰わないこと。
ただし、魔力を限界まで絞って、だ。
サーモグラフィーよろしく魔力量を測定する機械を用いて、互いに規定値を僅かにでも超えた瞬間負けとなる。
右、左のストレート連打の直後に斜めに振るわれる右の裏拳。
鏡合わせの順に腕を動かして、全ての攻撃を逸らす。
顔の高さまで振り上げられた右手を左手でかち上げた関係でガルライディアの視界は著しく狭まった。
ついでにやや無理やり逸らされた勢いも使っての左足での薙ぐような蹴りに対して、ガルライディアは右手を勢いよく振るいながらデコピンを放つ。
とはいってもただのデコピンでは無い。
指先に収束した魔力を弾いて蹴りを鈍らせた。
その隙に、後退。難を逃れる。
そう思っていた。
弾かれた魔力がセージゲイズの左足の脛あたりにぶつかる寸前、セージゲイズは左足で踏み込んだ。
もとより、フェイントを兼ねての踏み込みであった。
ガルライディアが攻撃用と勘違いした左足の集中身体強化は、浅く向きもちゃんとしていない状態でも踏み込みとしての機能を果たすためのもの。
地面に対して斜めに加速したセージゲイズのラリアットがガルライディアの顔面に直撃した。
「~~~~~~!」
「――ぁっ………………」
ガルライディアは声も出さずに、息を止めた。というか止められた。
本気で焦ったセージゲイズの声ならぬ声のみがそこにはあった。
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「本当にごめんなさい。……大丈夫?」
「あぃ。…………訓練なんで謝らないでください」
クッソ痛いが、気にしないでほしい。
これが本音である。
訓練に付き合ってもらっているガルライディアにとって、ラリアット一発程度でそんなに気にされても困るのだ。
そもそも魔力を絞った状態での戦闘では大したダメージにはならないのだ。
視覚情報的に精神ダメージがあるだけで。
「…………まぁ、取り敢えず休憩ね」
「はい。――あ、休憩ついでに一個いいですか?」
「なにかしら」
休憩などの合間を縫う質問などは慣れっこだ。
魔法関係の質問ばかりで熱心だと思う反面、無意識のうちに急かされているように見えて、どうしたものかとも思うのだ。
とは言え、家族のことさえ見通せない自分にとやかく言う資格など無いので、出来る限りの手助けに尽力する。
「この前、お母さんがぽろっと言ってたんですけど、ラウムって前々から行動してたみたいなのになんで話に全然出てこなかったんだろうなって……」
「――ああ、それねぇ…………。私も気になって調べたのよね」
気になって、書類から清水監督に聴きに行ったりと色々動いた。
全方位に迷惑だったと反省はしている。
だが、それでも言いたい。
「割と杜撰な話だったわ。貴方のお母さま、クリムゾンアンドロメダ氏含めてラウムを認識または、そういう存在がいることを知っている人はいるわ。――でも、存在は公開されていなかった。それは何故だと思う?」
「知っている人はいても、そもそもほとんど遭遇しないから、とかですか?」
ここだけの話、アンドロメダがラウムと遭った回数はたったの3回。
内一回は、ラウムが精力的に活動し始めてから、つまりはここ最近だ。
最前線で5年以上戦い続けラウムに興味を持たれていた者でさえ、この調子だ。
そんなのをどう周知しろと言うのか。
噂程度になれば良い方である。
市民には、最強の魔法少女でさえ勝てるか怪しい存在を公開できない。
しても忘れられそうではある。
魔法少女には上記と同様に周知する意味があまり無い。
そんな程度の理由だった。
「分からないなりになにかしら対応に動くべきだったわね」
「例えば?」
「障壁や結界の効率的な力づくの破壊法の確立、とか?」
聴いた話によるとラウムの魔法の詳細は分からなかったが、障壁魔法に近いものを主に使用することは分かっていた。
ならば、その確実な突破方法のノウハウは積み重ねるべきだった。
30年の戦闘記録で全くないとは言えないが、敵となりうる存在の得意技にしては情報は少ない。
30年間で、本当に力づくでラウムの空間断絶を破壊できるのは10人もいないのだからなおさらに。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




