彼女の日常
午前5時24分、カーテンに遮られた日光が薄く部屋の中を照らすなか、ベッドの膨らみはむくりと身体を起こした。
「んんっ…………」
大きく伸びを一つ。
凝り固まった身体を伸ばす少女の腕が枕元へと進んだ。
ーーピッ…………
朝の訪れを告げようとした目覚ましの第一声が途切れた。
どうせ目覚ましより前に起きるのに、毎日つけている目覚ましを慣れた手つきで止めた少女――結――は眠気眼のままに着替えを開始。
クローゼットから手ぐせでスポーツウェアを取り出して、雑に着込む。
前もってタオルを入れておいたバッグと追加の着替えを掴んで、キッチンへ。
冷蔵庫からスポーツ飲料を一本抜き取ってカバンの中へ。
追加の着替えは洗面所に置いておく。
玄関を出て、朝のランニングへと駆け出した。
均等なペースになるように意識して、朝日に照らされた人気のない道を走る。
基本的に朝のランニングは3km固定。
それを終えたらストレッチ。
朝の公園にて入念に。
帰りは軽く流すように走って、靴を脱いだら洗面所――その奥の風呂場へ。
服を脱ぎ捨ててシャワーで汗を流す。
「――ふぅ………」
乾ききっていない髪をタオルで押さえつつ服を着て、ドライヤーを弱めに付ける。
現在時刻は6:15。
流石に最大出力でドライヤーを掛ける勇気は、結には無かった。
香織は兎も角、昌継は基本的にまだ起きない。
起こすのは忍びなかった。
香織は普段そろそろ起きてくる時間帯だ。
朝ご飯になりそうなものでも何か用意しておこうか。
そんな思考を打ち破る何かが焼ける、食欲を刺激する音。
(遅かったか…………)
毎日のように仕事がある中、休みなく食事の用意をしてくれているのだから、せめて朝くらいは――とは思っていたが、遅かった。
結の起きた時間は、5時半よりも早い。
これ以上早めることは中々難しい。
とはいえ、朝のランニング等を削るという選択肢は無い。
如何ともし難い問題だった。
取り敢えず、手伝いはしよう。
結はタオルを片付けて、小走りにキッチンへと向かった。
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循環。
常に全身各所に一定量を循環させながらも、何か所かだけに集中させる。
(足りない。もっと速く――!)
加速、循環速度を2割増しに。
ピシリ、と身体に僅かに痛みが奔る。
だが、この程度で止めていたらいつまでも強くなれない。
だから、まだ加速する。
授業の合間の10分休み。
教室移動もないので、自席で本を読んでいるふりをしながら魔力制御に励む。
「―――ーい」
気持ち強めに肩を叩かれる。
触れられるまで全く気が付かなかった結は、ピクリと身体を跳ねさせた。
急加速する心臓を抑えるようにゆっくりと振り返ると、しょうがない者を見つめる陽子の瞳と目が合った。
「ごめん、なに?」
「次の国語の授業、なんか図書室に集合だと。あと、3分無いから急ぐぞ」
「ありがとう。すぐ行くよ」
むずと荷物を雑に掴んで陽子を追いかける。
普段はゆっくり歩いて待ってくれるが、今日は違ったことに結は気が付かなかった。
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