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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
罪の所在

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懐古録 Ⅱ

今回の話、ちょっとなろう的にアウトにならないか不安です。


まあ、そうなったらその時なんで。

 いつからそうであったかは知らないが、いつもそうであったのを知っている。



 _______________




 切っ掛けはなんだったのだろうか。


 勤めていた会社の倒産だったか、投資先の株価が急落した事だっただろうか。


 それとも、今までの積み重ね全てが原因であろうか。


 真相は誰にも分からないが、誰からみてもあの一家は異常であった。


 酒とタバコに溺れ、働きもせずに暴力に走る父親。

 家計を一人で支えながら、暴力に晒され続けた母親。

 逃げるように自室に篭り、サブカルチャーと思い出に浸っていた娘。


 家族は壊れていた。


 数年後には、娘と母親が再び真っ当な関りを持った。

 それ自体は喜ばしいことだった。

 元々良好だった家族関係。

 そして、共通の敵の存在。


 問題だったのは、娘がすぐ後に家を飛び出したことだ。


 その原因は、まさしく最悪の一言に尽きる。


 母親が父親に強姦されていた際の悲痛な悲鳴だったのだから。



 _______________




 読んでいた漫画をベッドに放る。

 あられもない姿のヒロインの描かれたページが少し折れ曲がる。


「………はぁ、苦手なんだよねぇ」


 誰に言うでもなく、美勇は呟いて漫画を避けてベッドへと倒れこむ。


 漫画は昔から好きだ。

 ただどうしても、アレ(・・)なシーンは受け付けない。


 純粋なトラウマと化している。

 時を経てある程度軽減されてはいるが、それはそれとして苦手な事に変わりはない。


(本当にふざけやがって………!)


 ギリリ、と歯が軋む。


 最悪の父親に。

 逃げ出した自分に。


 母親が密かに集め続けた証拠の整理を手伝う過程で、母親が弾き切れなかった刺激の強いもの(・・・・・・・)をいくつか見た。

 殺意に似た何かを自分にも相手にも覚えて、壊したくなる。


 一緒に逃げることを提案はした。

 今となっては母の真意も聞いて分かっているが、当時は証拠集めを名目に断られた。

 証拠なんて十分だったのに。


 なんとなくそれも分かっていた。

 でも、あんまり説得に時間をかけてもいられなかった。

 バレたくなかった。


 だから、逃げた。

 一人で。

 大切な家族を置いて。


 今過去の自分にあったら撲殺しそうだ。

 そんな思いさえ父親譲りな気がして、自己嫌悪に苛まれる。


 そうくよくよしてはいられないというに。



 ________________



 コトリ、と寝室のテーブルにコーヒーを入れたカップを置く。


「ふぅ………………」


 ため息を一つ。

 疲労を滲ませながらも、彼女は緩く微笑んだ。


 前々から変わらず美勇が借りている部屋は、2DK。

 そして、彼女が使っていたのは、一部屋だけ。

 その意味を気付けないような親はいない。


 端から一緒に住む気でいてくれたのだ。

 それが彼女には何よりも嬉しかった。


 一度途絶えてしまった家族関係は、愛娘が歩み寄ってくれたからこそ修復できた。

 こんな自分を母親として、慕ってくれているそのこと自体が千里には望外の喜びにあたる。


 証拠を集めるため。

 美勇の帰る場所が無くなってしまわないようにするため。


 彼女が娘に話した理由はこの二つ。


 けれど、本当はもう一つだけあった。


 それは単純。

 そして、自分勝手甚だしい理由だ。


 過去を無かったことにしたくなかったから。


 昔、とは言えまだ5年ほどしか経っていないが、優しく家族思いだった夫の姿を、二人で歩み始め、三人で手を繋いでいた時間を、どうしても捨てきれなかった。

 当時、大好きだった家族を否定できなかった。


 変わり果てた今を知っていても、瞼を閉じれば簡単に以前の柔和な笑みが浮かんでくる。


 最早跡形もないというのに。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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