表の死と裏の生
「エレクさん、お願いしますっ」
「任された。――征雷響きて、終わりを齎す……!」
時刻は22時。
深夜に差し掛かった闇夜を雷光が切り裂く。
紫電に焼かれたのは、計8羽のウサギ型の魔物。
ただし、その体長は2m半ば、自然界のウサギの最大種の3倍近い巨体だ。
ガルライディアの視界内にて、魔物をターゲットしたサークルが出現する。
同時に魔力の楔が生き残った魔物に打ち込まれる。
いくらエレクの火力が強大とは言え、8羽に分配して全てを屠りきるようなレベルの魔法を即時準備できる訳ではない。
残りの4羽がガルライディアへと殺到する。
彼女に触れることは叶わないというのに。
「『追尾』」
打ち込まれた魔力の楔を辿り、対象を自動追尾する魔弾。
セージゲイズの魔力弾に倣った新しい魔法だ。
発砲までにロックオンなどの工程を踏まなければならず発動が遅く威力も低いが、ある程度の距離までならほぼ必中となる便利な魔法だ。
魔物が群れを成すことが非常に珍しい為に、対多用としての用途はあまり満たせない。
そんな存在価値を疑われかねない魔法だが、『フライクーゲル』一丁で放てるのだ。
雷と魔弾を食らっても、まだ生きてる魔物を雑に撃ち抜いて、腿のホルスターに落とす。
振り向くと、エレクも掲げていた杖を下ろしていた。
「お疲れ様です。群れの魔物とか初めてでした」
「……ん。珍しい。年一より少ないから」
「運が良いのか悪いのか、分からないですね」
魔法少女歴半年と少々のガルライディアにとって初体験となった魔物の群れであるが、3年以上戦ってきたエレクでも、これで2度目となる遭遇だ。
無駄なレアさである。
そんな貴重な体験は誰も求めていない。
「これも、魔人同盟のせい、なのかな……?」
「分からない。これが頻発するのなら、可能性は結構ある。…………ただ、魔物の出現数の急増は、約10年前のSランク出現の時も起こっているから、そっちも否定できない」
ヒュアツィンテの魔力特性を魔法少女側が把握できていないために、考えるだけ無駄と言ってしまえる。
生物干渉系が今のところ最有力候補ではあるので、魔物への干渉などは視野に入れやすい。
ただし、エレクの指摘にある通り、最新にして二体目のSランクの魔物が出現する予兆として、魔物の大規模な活性化がみられ、現在よりも弱かった街の大規模結界では抑えられず、街中が魔物だらけになる事態が、全国で一年で10件以上起こったりしている。
現在で同様のことになる場合、魔物の出現数や個々の魔力量は減るだろうが、それでも被害は計り知れない。
そういう事情もあり、一層の警戒が求められている。
結局魔法少女達も魔法局も後手に回るしか出来ないのだ。
魔物の出現は事細かな予測が困難であり、街に近づく魔物の対処をする程度。
魔人同盟に至っては、本拠地が掴めていない。
全国で調査はされているものの、ラウムの空間干渉を突破して探せる人材がいないのだ。
唯一と言っていい可能性のある人材は、魔法少女の最高戦力。
高速移動まどは出来ない為に、あまり全国単位で活動出来ないので、厳しい。
少なくとも、彼女の活動範囲周辺では見つかっていない。
後手に回るなりに対処方法を検討及び実行していかなければ、この国に未来は無い。
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月明かりに照らされて、一人の少女がクリップボード片手にメモを取っていた。
奇麗ではあるものの、どこか幼さを感じる丸みを帯びた文字。
「意図的に魔物に群れを組ませる事は可能。……………でも、単体でスペックはあんまり高くは出来ないか。私の制御力不足…………じゃ無いか。限界がある?」
(制御力はまだ足りていないのは、事実だけど。…………でも、それを言い訳にしていても事態は好転しない。ちんたらしていたら、向こうが実力を上げてくる。私を戦闘を特別鍛えている訳じゃない。前の時点で技術面は負けていた。その差はどんどん広がる)
ワインレッドのドレスを風になびかせて、少女――ヒュアツィンテ――は一人嘆息する。
結果をメモとして記して纏めてきて、なんとなく法則性は分かってきた。
本音を言うなら、こんな面倒なことは嫌いだ。
正面から殺したい。
一対一、誰も邪魔も入らなければ、現状なら勝てる筈だ。
でも、まだ駄目だ。
準備を重ねていかないと。
そうしないと、また同じ事が起こる。
それは彼女の望むところでは無い。
周到に用意して、還付無きままに惨たらしく殺す。
そのつもりで、計画をラウムと共に練ってきた。
でも、どうしてだろうか。
「――――ッ」
ツキリと胸が痛むのは。
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