牛歩、けれど確実に Ⅰ
一歩、踏み込みと同時に収束した魔力を放出して爆発的な加速を得る。
放つ魔弾。
狙いは、両肘、骨盤、顔の四箇所。
それらを最小限且つ高防御の障壁により弾きつつ、魔力の槍をレンジのやや外から鋭く突き出す。
両者の前進を含めても若干足りないリーチ。
だが、それはうねる様な軌道を描いた槍自体が伸びる事で解決。
曲がりくねった軌道でありながらも、確かな速度を以て、刺突を成立させる。
ガキン、と横に半歩逸れながら魔力を纏わせた左の拳銃で魔力の槍を叩き落とす。
「『衝撃』」
対象自身で無く、地面に魔弾を放ち地面を揺らす。
相手自体に魔法が効かないのなら、間接的に影響を及ぼせば良い。
魔力放出を以て踏み込み、懐へ。
槍を十全に振るえぬ距離から近接線を仕掛ける。
ガンカタと呼ばれる拳銃を用いての近接戦闘、未完の我流技法を振るう。
拳銃や蹴りによる打撃、それに織り交ぜられる魔弾の数々。
だが、それも障壁魔法一種類で完全に防がれる。
コンパクトに振るわれた顎への蹴りを半身を逸らして躱す。
手首目掛けて魔弾を放ち、対処させる。
槍での攻撃を一瞬遅らせ、至近距離から『散弾』を放つ。
障壁を『散弾』のバラけた弾丸それぞれに展開する事は基本的に不可能。
全身を覆うサイズの障壁を展開するのを尻目に背後に回る。
放つ魔弾は『衝撃』。
それも指向性を極限まで絞り一方向への力を高めた物。
だが、魔弾を放つよりも相手が振り返る方が速い。
踏み込み、腕の振り、魔力の槍、その全てに魔力放出を併用する事で高速で薙ぎり、暴風を形成する。
ボバッ、と壁が如き空気が少女の身体に襲い掛かる。
構えていた拳銃は見当違いな箇所に魔弾を放つはめになる。
それだけの隙があれば十分だった魔力の槍を首元へそっと添える。
それだけで終わりだ。
所詮は模擬戦なのだから。
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模擬戦を終え、訓練室に備え付けられたテービルにて、反省会が行われていた。
付近にあるホワイトボードを引っ張って来たセージゲイズは、黒の水性ペンを片手に模擬戦の相手であったガルライディアと観戦していたファルフジウムの方へと振り向いた。
「ガルライディアとグラジオラス、直接戦った二人の話と清水監督が下さった資料から考えられるヒュアツィンテの戦法をやってみた訳だけれど、何か感想は?」
拙い槍捌きはセージゲイズの自前だが、ヒュアツィンテとて然程上手いわけでは無かった。
血色の槍を魔力で模倣して、その身に纏った莫大な魔力による防御を障壁魔法で再現。
大分ヒュアツィンテに近いように思われたが、一点。
決定的に異なる点がある。
「すみません、身体強化の出力って……」
「申し訳ないけど、今のが限界ね。観測した魔力量から考えて最後一個手前の一撃の八割がデフォルトだと考えて」
当たり前ではあるが、ヒュアツィンテの魔力は防御だけに使われているわけでは無い。
平均的な魔法少女の魔力量の軽く5倍以上。
ガルライディアだって、歴の割には魔力量がかなり大きいが、それだって3倍以上の差がある。
エレクと言う現役魔法少女最大級の魔力量にさえ、匹敵する程だ。
なお、エレクは特に彼女の言うところの色彩魔力持ちである影響で1.5倍近く魔力量が増えて、である。
そして、彼女曰く、ヒュアツィンテは色彩魔力は持っていないらしい。
流石にラウムよりは少ないが、それは年期の差である。
「攻撃通すのが、まず大変そうだよねぇ。こう……一箇所に大出力でバーンとイケないかな?」
「相当に範囲を絞れれば、ね。例えばガルライディアの魔弾サイズにエレクの『悉皆還す赫灼たる霹靂』クラスの火力を収束できれば、相手が真面目に防御しても上から一撃で殺しきれるでしょうね」
異常とも言える魔力による防御を真正面から打ち砕くとなると、当たり前だがそれには異常なまでの威力が必要となる。
参考までに、攻撃魔法は追尾性能などをつけていない場合、魔力消費と威力(効果範囲×単位範囲あたりの威力)は凡そ比例する。
魔法属性などにも左右されるが、大まかには上記の条件を満たす。
エレクの『起源魔法』である『悉皆還す赫灼たる霹靂』は圧倒的な火力であると同時に、消費も圧倒的だ。
理論上、Sランクの魔物にさえある程度のダメージを一撃で与えられる程の魔法なのだから、消耗もそれ相応なのだ。
そのような大魔力を銃弾サイズに収束するとなると、並大抵の技量では不可能。
現状それが可能である魔法少女は一桁人程度。片手にさえ収まりかねない。
閑話休題。
殺せなくともただ攻撃を通したいだけなら、弾丸サイズにファルフジウムの『Nova・Brave・Blade』クラスの魔力を収束すれば、防御の上からでも可能だろう。
また、不意を付けるのなら、火力はそこまで高く無くても問題は無い。
ガルライディアの収束魔力弾使用時の『貫通』でも可能であろう事を(若干早口で)述べて、セージゲイズは用意していたスポーツドリンクを一口飲み込む。
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