黒赤
大量の資料を前に、すっかりと冷めてしまったコーヒーを一口、創美は今にも崩れ落ちそうな錯覚を覚えていた。
「多過ぎるわよ、これは」
該当した資料の件数は、優に1000を超える。
一つ一つ確認して、未だ進捗状況は半分に及ばない。
通常業務の合間合間に確認をし始めて、早一週間が経とうとしていた。
現状、部下の面々は大規模な企画の準備にかかり切りの状態。
一番時間があるのが、魔法少女に直接関係のある業務系の最高責任者という悲しき現実となっている。
そも、該当資料が多過ぎる。
更に言えば、調べている内容が曖昧過ぎるのだ。
溜め息を一つ、創美はタブレット端末である映像を再度確認する。
魔人ヒュアツィンテの映像だ。
伸縮自在、蛇が如く曲がる血色の槍。
背中から生やした蝙蝠のような羽根。
それらから考えられる魔法適性に当たりをつけようとすると情報量から膨大な資料の確認が必要なのだ。
魔法の適性は個人差が激しいとは言え、傾向のようなものは少なからず存在する。
なので、過去の傾向から対象の適性などは基本的にある程度までは探ることが出来る。
クリムゾン・アンドロメダやアスタークレセントのような例外は在るが。
ヒュアツィンテの適性として考えられるのは、
①生物系
②物質操作系
の二択だ。
生物系は蝙蝠の羽根より。
生物の特徴を魔法的に再現する魔法少女は散見される。
基本的に各々一種類の動物種の再現に留まる。
物質操作系は、硬質な槍を変形させた点より。
特に金属操作系では無いだろうか。
特殊な例だが、過去に金属操作系の魔法少女が生物の羽根や爪などを金属で再現した事もある。
それもあって、生物系よりは金属操作が近いのでは、とされている。
所詮傾向。
所詮暫定。
けれども、多少なりとも対策の目処が立つのならば、馬鹿ほど多い資料も苦では無い。
「――まぁ、適性の一部しか使ってないのなら殆どが無駄だけれど…………」
ふぅ、と深くため息を吐きながら、創美は仕事を再開する。
最早まともに戦え無い身ではあるが、少しでも後輩達の助けとなろうと。
_______________
荒い画質。
ブレた映像。
しかし、それでも伝わる事は確かにある。
「……え、と、ラウム」
「なんだ」
「これ、マジなの?」
意識して被っている皮は呆気なく剥がれた。
その状態で一応、無駄だとは分かっているが、問うヒュアツィンテ。
「全盛期など当に過ぎていて、それだ」
「ぅあぁ…………」
言語としての体をなしていないナニカを発する(一応の)協力者を尻目に、ラウムは映像を別のものに切り替える。
先程のものは昨年の『ハルトクレーテ』を用いた襲撃の際のクリムゾン・アンドロメダを主に追った映像で、今度のは十五年ほど前のものだ。
「――未だ健在、側から見ればそう見えるかもしれないが、直接見てきたこちらからすれば著しく弱くなっている。以降戦うのなら全盛期の四割なら強い方だな」
「……強いは強いけれど、単純スペックと持久力両方が下がっていると見るべき?」
映像からは魔力を感知することは出来ないけれども、二つの映像の比較で割り出せるのはそのあたり。
首肯を返しつつ、ラウムは次の行動を説明し始める。
都合の良いなのだから丁重に。
それでいて、楽しめるように。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




