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始まりの日

 ある初夏の夕方頃、少女は走る。重くなりつつある身体を生存本能にて無理矢理に動かしながら。

 悍ましい音が背後から迫る。

 少女――加集(かしゅう)(ゆい)は思わず振り返った。振り返ってしまった。


「ひぃっ……」


 微かな悲鳴が、漏れる。無理もないだろう。

 彼女の目に映ったのは、動物、ただし、猫や小鳥のような可愛らしさなど微塵も無い。赤黒く濁った瞳。人など容易に殺しうる鋭利な牙や爪。茶や赤に汚れた四足歩行の身体。姿形は狼に近いだろう。しかし、2メートルを超えるその大きさは一般的な狼とはまるで異なる。


 それは、30年前突如として現れ、以来人類に敵対する"魔物"。街中まで入り込むことはそうそう無いが、入ってしまったが最後、討伐されるまでひたすら周囲の人々を殺してまわる。

 対処法が無いわけでは無い。勿論の事、結は持ち合わせていないが。それは――


「そこの女の子、こっち、こっちに来て!」


 突然そんな声が聞こえた。

 結は声の主が誰なのか知らないが、その声に従い路地へと、限界をとうに越した身体を引きずるようにして飛び込んだ。


「ハァッ、ハァッ……」


 結は荒い息を吐く。

 そこは狭い、50センチの幅も無い場所だった。


「グルルッ!」


 結のすぐそばから魔物の唸り声が聞こえる。

 だが、幸いにも魔物は狭いからか路地には入っては来れないようだった。


「はあぁぁぁ……」


 結は漸く安堵の息を吐いた。


「おーい。君、僕の事忘れてない?」


 不意に前方から声を掛けられた。

 結は身体をびくっとさせつつ、声がした方に目を向けたが、なにも居ない。結は目を瞬かせた。


「もっと下だよ。し・た!」


 再び声がした。

 結が視線を下にずらすとそこには、灰色でストラップ位の大きさの熊のぬいぐるみがあった。


(喋るぬいぐるみ?ないない。疲れているのかな?)


 結の考えはもっともだ。が、30年前よりこの世界は摩訶不思議な事で満ちている。


「こんにちは、いや、こんばんはかな?どうも、喋る熊のぬいぐるみです。名前はアッシュ。君の名前は?」

「か、加集(かしゅう) 結です」


 噛みつつも、結は答えた。


(喋るぬいぐるみでいいんだ……。というか、まだ外に狼いるのに、なんでこの子こんなに冷静なの⁈)


 結の考えを読んだかのようにアッシュは続けた。


「加集 結さん。君に頼みがあります―。あの魔物を倒すために――」


 魔物の対処法、それは――


「魔法少女になってください!」


 魔法少女として戦う事だ。


お読みいただきありがとうございます。

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