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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
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集いて砕け Ⅺ

 フュンフにガルライディアの『展開(エクスパンション)』が直撃した。


 ハルトクレーテから落ちていく間に叫んだ最後の命令。

 それが魔物の枷を外した。


 生存本能と言う枷を。


「――――――」


 声無き声。

 たったそれだけで、空が打ち震える。


 ハルトクレーテは周囲に魔力塊を大量に形成しながら、真正面のガルライディアに突進、反転して尾を以て薙ぎ払う。


 バックジャンプ。

 大振りの一撃を余裕を持って躱して、魔弾をつるべ撃ち、魔力塊を砕く。


「『啄む金糸雀』」


 後方の魔力塊の対処のために、ラークスパーが展開した魔法は、自立行動式の金糸雀(カナリア)型の風。


 その魔法は、自身で術者の脅威の破壊を試みる。


 3羽の金糸雀の羽ばたきにより発生した幾重もの風の刃が魔力塊を撃ち落としていく。


『街への被害抑えたいから短期決戦でいくよ』


『啄む金糸雀』自体の魔力消費もさることながら、そもそも消耗しているラークスパーは『念話』で魔法少女達に了承を得てから、強く魔翼をはためかせた。


 ガルライディアの『徹甲榴弾(アーマーブレイク)』を受けて一瞬動きが止まった。


 瞬間的に距離を詰めて、ラークスパー・ファルフジウムが同タイミングで両後ろ脚に斬撃を叩き込む。


 渾身の力での二撃は、確かにハルトクレーテの体勢を崩した。


 ――今だ。


 示し合わせたように、彼女らは行動を開始した。


「『爆裂(ブラスト)』!」


 五発の連射を一秒以内に纏めて放つ。

 僅かに体勢を崩して、後ろに傾いた身体を掬い上げる。


 五発が順番にハルトクレーテの腹で炸裂し、爆風によってハルトクレーテの巨体を浮かす。


 ――『Nova・Brave・Finish』!


「応えて『魂の籠』――!!」


 閃光纏う蹴撃。

 大鷲模る打撃。


 後ろ脚への痛撃で浮き上がった身体を引っくり返す。


 ハルトクレーテのベースは亀だ。

 ならばひっくり返せば、討伐はかなり楽になる筈だ。


 各々の魔力を練り上げる。

 しかし、最初に魔法を放ったのは、彼女ら3名では無かった。


「『悉皆還す赫灼(エレクトロキュート)たる霹靂(・テンペスト)』――!」


 ラウムとの戦闘を終えたエレクの最大火力の豪雷がハルトクレーテの腹から全身を焼き焦がす。


「『起源(オリジン)――」


 ガルライディアの紅が爆発的に膨れ上がる。

 いくら燃費の良い『起源魔法オリジン・マギカ』と言えど、彼女の残存魔力では2回は発動出来ない。


 だが、放つ事は無かった。出来なかった。


 轟音。

 吹き荒れる暴風。


「ぅわっ…………!!」


 全く予期していなかったタイミングでの烈風にガルライディアは思わず片手で顔を覆った。

 対物結界があると分かっていながら、覆ってしまった。


 ガルライディアと同様に視界を塞いでしまったファルフジウム。

 風に煽られ、姿勢維持に集中力を回してしまった残り二名。


 何にせよ、現状相対している者の注意が逸れた。

 ならば、する事は一つ。


 命令の遂行、それのみだ。



 _______________




 時刻はやや遡り、主戦場から百数十メートル離れた地点にて、アンドロメダの治療が行われていた。


 意識を失っているアンドロメダを運んだ後の、セージゲイズとグラジオラス両名での治療は、三分程で大きな傷は治った。


 少なくとも表面上は。



「グラジオラス、脚の止血をもっと重点的にして。絶対に腕は治療せずに」

「了解。回路の方はお願いします」


 アンドロメダの負傷の内、最も甚大な部分は両腕。

 それも両腕の魔力回路だ。


 そして、魔力回路は血管のような立ち位置ながら、神経系にも勝るほど繊細なもの。


 当然ながら、修復難度は群を抜いて高い。


 だが、彼女ならば可能だ。


「『起源魔法(オリジン・マギカ)』『悉皆明かす愚者の智慧エリュシデーション・ワイズ』」


魔を垣間見る(スペル・スコープ)』とは比較にならない程の解析精度を以て、アンドロメダの魔力の流れから、正常な状態の魔力回路を逆算的に割り出す。


 そんな事が可能であるのに、セージゲイズがこの魔法を温存する理由はたった一つだ。


魔を垣間見る(スペル・スコープ)』と解析精度と魔力消費を総合的に判断しても、消費が莫大であるからだ。


 寧ろ、『魔を垣間見る(スペル・スコープ)』の燃費が効果に対して良過ぎるだけだが。


 閑話休題。


 治療を開始する。

 ある程度(・・・・・)の抵抗力を持たせた魔力で糸を編み、ズタズタになっている魔力回路を縫合していく。


 ここで、魔力に持たせる抵抗力を上げ過ぎても下げ過ぎても、治療は失敗する。


 上げ過ぎれば、流れる魔力との大きな反発で魔力回路の損傷が、それこそ取り返しのつかない事になる。


 下げ過ぎれば、それはそれで回路の形を保てずに周辺部位にダメージが及ぶ。


 魔力回路は、専用の器官であるために身体のあらゆる場所で最も他者の魔法が効きにくい。


 その為、縫合した後に、申し訳程度に治療魔法を掛ける程度しか出来ない。


 体内含めて粗方治療が終わり、安全な所に移して戦線に復帰しようとしていた時に、彼女は目を覚ました。


「…………う……ッ!」

「起きましたか。安静にしていてください。傷は治っても血はすぐには増えないので」


 ガバッと急に起きあがろうとして、グラジオラスが張った障壁に弾かれ地面に戻される。


 セージゲイズは目配せをして直ぐに、戦場へと飛び出した。


 グラジオラスは地面に敷いた障壁を操作して、付近の遮蔽物の影にアンドロメダを安置した。


「……わ、たしも…………」

「暫くは無理でしょうに。せめて数分はゆっくりと魔力を回して回復に努めてください」


 口から出てくる言葉さえ途切れ途切れで、

 身体を持ち上げる力さえ満足に無い。


 そんな状態のアンドロメダに対して、グラジオラスは待ったを掛けた。


「大丈夫ですよ。我々も、あの子も」


 音も無く加速して、戦場へと突き進んでいく。


 力無く横たわるアンドロメダは、

 白の光芒のずっと先に、己と良く似た(あか)の閃光を見た。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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