集いて砕け Ⅹ
11月分を8月に予約投稿する今日この頃。
エレクは周囲に五つ展開した球体から圧縮した雷撃を放つ。
敵の行動を予測を含んだ偏差撃ち。
それらをラウムは雑に躱す。
一発一発は例え直撃したとしても、大した問題にはならない。
ならば、適当な回避で十分だ。
(……やっぱり、弱ってるな)
誰よりも多くラウムの魔法を見てきたエレクだからこそ、それに気が付いた。
魔法に込められている魔力量は平時とそう変わらない。
(相も変わらず、魔力をケチってるな………。楽だけど)
研究第一であり魔力消費は抑えたがる癖は、以前から変わらないらしい。
今現在、ラウムの魔法出力がエレクの見立てでは推定一割下がっている。
(半壊したままでも結界の影響は、ある……。そうじゃ無いと避ける必要が無い)
本来のラウムの空間断裂防御ならば、先程エレクが放った攻撃など五発同時に直撃しても、余裕を持って防ぎ切れる。
だが、今の防御なら二発同時なら破壊出来る。
街を覆う大規模結界は、魔物の侵入を拒むと同時に、結界内の魔物の魔力を抑え乱すものだ。
魔物に魔力の質が近いラウムでは、魔力出力も魔力制御もどちらも影響を受ける。
空間干渉系魔法最大の弱点は、求められる制御力に対する魔法の強度が著しく低い点だ。
その為、結界内でのラウムの空間干渉系魔法は単純な出力低下以上に弱まるのだ。
魔力消費も大して無い魔法相手に防御がままならないのはエレクにとっては相当に有難かった。
懸念点はあるにはある。
だが、
(プライド塗れのラウムは基本的に使わない。今は退けるだけで十分)
エレクの目標は殺害で無く撤退させること。
もちろん、殺せるなら殺すが。
ラウムが放った正確無比なカマイタチを、雷を水平に薙ぎ払って強引に相殺する。
その間にも、周囲の雷球からの攻撃は止まらない。
半自動で放たれる雷撃はラウムをイラつかせる程度にしかならないが、それだけあれば十分だ。
「――潰えろ」
高いプライドの影響か、ラウムは耐える事も待つ事も共に不得手とする。
上手くいかない状況下に於いて、この女は揺れやすい。
だから、攻撃が雑になっていく。
エレクの周囲一帯を囲む細かな障壁。
それらは全てが高速回転する事で斬撃の嵐と化す。
それらが目にも止まらぬ速度で少女に迫る。
パチンと指を鳴らす。
それは魔法を発動する際の合図。
己が想像で現実を否定する、そのためのもの。
魔導具によるエレクの強化は単純だ。
それは加速。
魔力を、魔法を、加速させるのみ。
ただ、それは魔法の展開から放つ際の魔法の速度にまで影響を及ぼす。
それによって、エレクは一瞬にも満たない時間で雷速を越えた魔法を放てるようになった。
「十束の雷剣よ、神敵を穿て」
次いで展開するのは、剣のように収斂した紫電十振り。
それらは、お返しと言わんばかりにラウムの周囲を360度取り囲む。
「――ッ」
舌打ちすらする余裕は無かった。
自身を頭から貫こうとする雷剣一振りを強引に魔力を纏った腕で弾いて、ラウムは翼で強く空を打つ。
飛び出た先には、圧縮した雷撃が置かれていた。
――読まれていた…………!
思考を妨げられるが、ギリギリで障壁を用意して防ぐ。
だが、その程度の障壁では一度の攻撃から逃れるのが限界点。
ラウムは現状に眉を顰めた。
(結界の再生が早いな。…………後二分と無いか……)
加速度的に弱まっていく魔法。
ただでさえ結界の中からの空間転移は面倒なのだ。
(逃げるなら、すぐにだな)
元より『ハルトクレーテ』の、新たな改造魔物の実験だったのだ。
今回に関しては、エレクの確保は「出来たらする」といった枠だ。
そして、主目的は粗方終わっている。
なので、必要性があれば逃げるのみ。
閃光を放ち、視界を潰す。
大気を足元へ移動、圧縮して、一気に自身を吹っ飛ばす。
下から放たれた幾つもの豪雷は多重展開した障壁で強引に止める。
急上昇する事で、結界の効果範囲から逃れる。
撤退をしやすくする為に、元々ある程度の高度で戦闘していたのだ。
これぐらいならすぐである。
(……ぁあ)
一つ、思い付いた。
「『暴れろ。壊せ。命果てるまで蹂躙しろ』」
撤退は出来た。
よって、最後に一工夫。
『ハルトクレーテ』への遠隔での命令及び強化。
既に自壊が確定している程に魔法が掛けられている『ハルトクレーテ』への追加。
だが――
「――チッ」
修復されつつある結界の穴に、水の膜が張られていた。
(おそらく、脱出後に展開。…………予測していたか、防御用か。何にせよ、これ以上の余力はそうそうあるまい)
ベンゾイルの魔力は、ラウムも知っている。
遠方からだが、何度も見ている。
最初に比べて遥かに弱々しいが、音を媒介とする魔法を防ぐ位は出来た。
最後の悪足掻きを潰されたラウムは、若干雑に空間転移を発動した。
エレクはラウムが転移した事を確認してすぐに、地上へと急降下を開始した。
まだ、戦いは終わっていない。
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