集いて砕け Ⅴ
流石に7月下旬にこれ予約投稿はなんかダメな気がする。
再び暴力的な風圧に押され、魔法少女達は数m下げられた。
砂埃で良く見えないが、圧倒的な気配が二つ、黄霧の中に存在することは分かる。
一方――魔法少女側に立つ者――が、腕を薙いだ。
たったそれだけで、砂埃は瞬時に晴れる。
そこにいたのは、ラウムともう一人。
「…………ぇ………………?」
ガルライディアが目を見開いた。
資料でその装束を知っていた。
映像でその魔力を観ていた。
けれども、何よりも、いつもその姿を見ていた。
「おかあ、さん…………?」
呆然とその背に呼び掛けた。
ちらりと向けられた視線が全てを物語っていた。
白ベースに深紅の炎の特攻服と同柄の鉢巻き、銀色のガントレットとブーツはガルライディアのそれらよりも一回り大きい。
烈火の如き魔力を纏い、格好も初見だけれど、ガルライディアが彼女を見間違う訳が無い。
「…………クリムゾン・アンドロメダ。出会い頭に乱暴な事だな」
「黙れ。その魔力を私が忘れる訳が無いだろうが」
「それはそうだろうな。特に、お前にとっては」
次の言葉を待つ気は無い。
クリムゾンが仕掛ける。
瞬間的な踏み込みのままに、ラウムを空へと打ち上げる。
防御されるが知った事では無い。
即時跳び上がり追い縋る。
「ラアッッ…………!!」
「相も変わらず、鬱陶しい事この上無いな」
上空で真紅と黒金が衝突する。
先代最強にして、絶潰と称されたクリムゾン・アンドロメダと嘗て魔族最強と謳われたラウムの激突は風圧となって地上まで届いていた。
「――ヒャハハ、マジかよ。大将んな――ヅ」
心底楽しそうなフュンフの頬に一筋の赤色が滲む。
『貫通』だ。
ガルライディアが放った攻撃だと認識する間もなく、幾つもの魔法が牙を剥く。
火炎と魔力弾、紫電、三種の斬撃。
その尽くを『ハルトクレーテ』の魔力壁は防ぐが、魔法の度にそれは剥がれていく。
『フュンフの特性は恐らくだけれど、他者への命令や強化をするものね。何度か声に出して魔物に命令している時に魔物に強化が入っていたわ』
セージゲイズが『魔を垣間見る』で読み取った情報を共有する。
未だ完全には解析しきれていないが、彼女はほぼ確定と見ている。
『セージちゃん、余裕があったら魔物の身体に歪な点が無いか調べてもらえる? この魔物確実にヒトの手が加わってるから、弱点が見つかるかもしれない』
『歪な点、ね……。了解、期待しないでください』
ラークスパーの魔力特性『踏査』は風と解析系統の複合特性だ。
特に自然物の解析を得意としている。
そんな彼女の解析が他の魔物に比べて、圧倒的に通りにくいのだ。
その他理由もあって、セージゲイズに解析を頼んだベテランは、腰にぶら下げた鳥籠に手を伸ばした。
「『バードストライク』」
ラークスパーは灰褐色の鳥を二羽、腰に下げた小さな鳥籠から放ち、まっすぐフュンフ目掛けて飛ばす。
(魔力壁を強化させて、そのまま突っ込ませる……!)
フュンフはゴリ押しを敢行。
決して鈍足とは言えない速度で『ハルトクレーテ』は突き進む。
灰鳥がフュンフの眼前で魔力壁と衝突する。
届かぬことに気を抜いた。
けれど、その程度な訳が無いのだ。
ジャンボジェットすら落としかねない現象を冠する魔法が。
ガリガリと魔力壁を削る。
灰鳥の周囲を風が螺旋を描く。
それがドリルの様に魔力壁を削り続ける。
自身の魔力の放出で吹き飛ばそうと、フュンフは右腕に黒白――黒と白との二色が入り混じった――魔力を込める。
――『Nova・Brave・Blade!!』
電子音。
それに追従する黄の閃光。
既に『百折不撓即ち勇気の証』を発動していたファルフジウムが『ハルトクレーテ』を足場にフュンフの眼前へと躍り出た。
「――ハァッ…………!」
斬。
腕を掻い潜り、脇構えから放つ横薙ぎ。
魔力壁を無理やりこじ開ける。
「穿て」
引き絞った腕。
弩の如く。
雷鳴轟き、大亀を焼く。
魔物は電気信号で動いているわけでは無いが、雷の魔法に含まれる魔力は魔物の魔力流を鈍らせる。
本来なら、自身が深紅の立場に立たねばならない。
けれど、ここを捨てる事もまた出来なかった。
「『白縛鎖』」
「『神火の戒め』ーー!」
「囲むは神敵。討つは霹靂。忌み者を彼の地に縛れ」
グラジオラス・セージゲイズ・エレクの拘束魔法が絡み合う。
強度重視の『白縛鎖』に、副次効果有りの『神火の戒め』の双方は乗算的に、『ハルトクレーテ』を縛る。
加えて少しでも動こうものなら、エレクが周囲に張り巡らせた雷の檻から電気が奔り、魔物の動きを一時的に完封する。
「『術式魔法』、『直接火力変換』」
『神火の戒め』が『ハルトクレーテ』を縛りつつ術式を形成する。
「ギィアアアァァアァァアァァァァッッーーーー!」
豪、と炎が上がる。
フュンフを巻き込んだ炎の勢いは未だ止まず、彼らの魔力を急激に燃やす。
「『起源魔法』」
両手の銀の拳銃を重ね合わせて、紅の少女は眼前の敵をしかと見据える。
ガシャリと金擦りの音が響いた。
「『一条乖離した紅の慟哭』ッ!!」
一撃必殺。
周囲の使用済みの魔力すら掻き集めて放つガルライディアの最高火力。
紅の閃光が『ハルトクレーテ』に迫る。
――『撃て』
『ハルトクレーテ』の口元で魔力が瞬間的に収斂される。
黒白が仄かに混じった汚れた光、それは真っ向から『一条乖離した紅の慟哭』とぶつかった。
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