集いて砕け Ⅰ
四章ラストバトル開始です。
我ながら、この章短いですね。
硝子の砕けた音より時刻は、少し遡る。
「……ふむ…………、やはり見通せんか」
結界の上空約2kmにて、燻んだ金髪を靡かせたラウムは瞳に魔力を込めて、結界の内側の様子を伺おうとした。
けれども、街毎に展開された結界は、魔物の魔力を拒むもので、魔力の性質が人よりも魔物に寄っている魔族のそれでは突破は困難だ。
出来ない訳では無いが、やるとバレる。
ラウム程の圧倒的な制御力でさえ、だ。
「――フュンフ」
空間を繋げる。
自身の真横と、彼の居場所とに、道を作り出す。
「……へいへい、やぁっと出番かよ…………」
「文句を言うな。良い物をくれてやっただろう」
「おっと、んじゃ黙んなきゃ――つか、オレら空中に立ってんの?」
ラウムの言うところの「良い物」について言われれば、軽薄なフュンフも黙らざるを得ない。
が、その前に他のことに食いついた。
ラウムの眉がぴくりと動いた。
「…………私の属性を忘れた訳では無いだろうが。――兎も角、伝えた通りに動け」
「へーい」
前々から伝えてあった作戦の開始だ。
だと言うのに、フュンフの動きが止まる。
「……結界消してくんねーの?」
「お前が動いてからだと伝えたはずだ」
「――ああ……! そんじゃ、まぁ、始めようかねぇ」
割と本気で忘れていた手駒がラウムには可哀想な奴に見えてきた。
けれども、至近距離からの視線さえも気にせずに、フュンフはネックレスに魔力を込めた。
「来いよ、『ハルトクレーテ』」
空間が歪み、巨大な亀が現れる。
漆黒の甲羅を背負ったその魔物の体長は、約10m。
出てきた瞬間に、ラウムは足元の空間干渉を解除した。
二人と一体は自由落下し始め、慌ててフュンフは手綱を握る。
グングン加速し、あっという間に結界の程近くに。
(ここまでの馬鹿魔力の魔物が近づけば、奴にはバレる)
ラウムは風圧を軽減しながら、冷静に魔力を練る。
バレるのは最初から分かっている。
ならば、盛大にやるまでだ。
「『崩界』」
空間を歪ませて戻ろうとする力を以て、一定範囲内の物体を粉砕する魔法。
それによって、結界を文字通り破砕する。
街を丸ごと守護する大規模結界と言えども、魔力密度的には十分『空間』で干渉出来る程度だ。
「潰せ、フュンフ」
足元に展開した『空間』の力で空中に着地する。
命令には返事が無い。
けれど、ラウムの頬は醜悪なまでに歪んでいた。
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『ハルトクレーテ』含む魔力が結界に迫る中、いち早くそれを感知したのは、治水の魔法少女 ベンゾイルこと清水 創美であった。
「―――――ッ!」
結界の外で迎撃したかったが最早それも叶わない。
瞬時に判断を下して、結界の内部の落下予想地点上空に水の障壁を幾重にも張り巡らす。
けれど、多少は持ち堪えるはずの結界は一瞬の接触も無く消滅して、『ハルトクレーテ』は自由落下のエネルギーをそのままに、水の層に突っ込んだ。
創美も伊達に魔法少女として前線に立っていた訳では無い。
魔力回路を急加速させ、一気に障壁を強化、追加展開する。
それが、いけなかった。
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