研究結果
12月23日。クリスマスを間近に控えた真冬の頃、魔法少女用の訓練室、その一角に人溜まりが出来ていた。
「……それが…………」
「ーーはい。魔石を利用した補助道具、通称魔導具、の試作品達です」
亮歩の報告を受けた後に、明と魔法局支部研究室の室長(立場的には支部第三位だったりする)の二名から、聞かされた内容は、創美をしても、驚愕する程だった。
発見から僅か半年で、試作まで漕ぎ着けた魔導具は、魔石に直接術式を刻む事で、恒常的に魔法を発動するというもの。
然程規模は大きく無い為、街を覆う結界への転用は難しいが、それでも魔法少女達の戦闘の補助ならば十分に熟せる。
少なくとも、計算上ではそのはずだ。
「……それで、これを私が試せば良いのね?」
「すみません。本来上司に頼むようなことでは無いのですが…………」
「寧ろ現役達にやらせてたら、処罰確定よ」
何があるか分からない以上、誰かが実験台にならねばならず、そして、それが出来るのは魔法を扱えるものだけだ。
必然的に、その役割は創美に回ってくる。
なお、魔法少女達は今回の実験を皆離れてはいるが、見に来ている。
「いいわ、始めましょう。好奇心を隠せていないのが、大人含めて何人もいるようだし」
創美の半目が、周囲で機材を用意する研究者達と魔法少女達(約半数は緊張が優っているが)と、最後に少女達とは微妙に離れた所で、誰よりも目を輝かせたラークスパー(30歳)に向けられる。
それは少しずつ湿度を増し、流石のラークスパーも居心地が悪そうに、身じろぎする。
溜め息を一つ。
これ以上の追及はしないでおく。
右手人差し指にひっそりと嵌められた花の装飾が刻まれた指輪に、魔力を込める。
「『揺蕩う水面。静けし細流。恵の雨と母なる大地。ここに息吹きの願いを伝えましょう』」
ぽたり、と魔力の雫が足元に落ち、荒れ狂う波が如く、膨れ上がる。
それはあっという間に創美を包み、瞬間空に消ゆ。
荒波の代わりにそこに居たのは、持ち手の付いた水瓶を片手に、熱帯地域のような民族衣装に身を包んだ女性の姿があった。
彼女は、治湧の魔法少女 ベンゾイル。
第一世代に於いて、防御と回復の能力で、活躍した存在だ。
「口上、長いですね………」
「第一世代だけね、あれは。当時の変身アイテムの性能が今ほど高くなかったらしくて、あそこまでしないと、碌に変身の維持が出来なかったそうよ」
結の思わずといった呟きに、こっそり説明を加える守美子だが、残念ながら衰えていても魔法少女、ベルゾイルには丸聞こえだった。
魔法少女の変身口上には意味がある。
あれは己を奮い立たせると共に、変身アイテムを起動状態にさせる為の、キーワードなのだ。
それを用いる事で、変身アイテムに刻まれた術式は変身を解くまで魔法を展開し続ける。
なので、瞬間的になら、口上無しで結界を張ったりは出来る。
閑話休題。
ベンゾイルは早速、眼前に並べられた試作品達に近づく。
「どれから試せば良いのかしら?」
「当人に直接影響しないものからにします。……なので、まずはこれを」
手渡されたのは、薄手のグローブ。
手の甲には、小さめの魔石が付けられている。
端についたタグには、『退魔強化』の文字がある。
「これは、展開した魔法の表面を魔石の魔力で覆う事で、その魔法の魔力への抵抗能力、威力を僅かに引き上げるものです」
研究者の説明の後に、セージゲイズは、小規模な障壁を離れた場所に展開していた。
「まずは、グローブを付けずに魔法を放ってください。性能自体も確認しなければならないので」
「……なるほど。なら、これぐらいかしら?」
瞬き程の時間で、指の先程の水球を形成し、そこから一気に細く鋭利な水流が放たれる。
セージゲイズがある程度真面目に張っていた障壁が一点への圧力で、微弱に軋みを上げた。
(本人の適性が攻撃向きでなくとも、これ程とはね……。流石と言う他ないわ。まだ私も遅いのね)
現役魔法少女の中でも、魔力制御に関しては上澄みも上澄みやセージゲイズでさえ、足りぬと思わせる速度。
生きる英雄とさえ言われる者は、伊達ではない。
「次はグローブを嵌めた状態でお願いします。放つ魔法の威力は変えないようにしてください」
先程と全く同じ量の魔力で同規模の障壁を張り直して、ついでにもう一枚少し後ろに追加してから、セージゲイズも一応数歩下がる。
ベンゾイルもそれを確認してから、これまた同じ魔法を放った。
先程は、障壁を破るに至らなかった魔法は、しかし、パキリと乾いた音を立てて障壁を打ち破り、二枚目をさえ、軋ませた。
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