彼女が加集になった日
「お父さん、お母さん、結婚記念日おめでとう」
結は、今年で13回目となる12月5日の加集夫婦結婚記念日の祝いの場(本人ら主催)にて、豪華な夕飯を前にして、プレゼントを手渡した。
今までの貰っていた小遣いをどうこうするのでは無く、完全に自身で稼いだ金銭での初のプレゼントとなった。
「ありがとう。開けさせてもらうわ」
中身は、ワインオープナー。
香織も、共に買い物に出掛けた昌継も、その中身までは知り得なかった。
だからこそ、彼らは少しばかり目を見開いた。
「……あら? ちょうど良いわね。使いやすそうね、ありがとう」
「先にワインとグラスを買うって言ったから何だろうけど、良い物を貰ったね」
加集家にだって、元々オープナー位はある。
けれどもそれは割と力のいる物であるため、夫婦は素直に喜んだ。
夫婦揃って元々の物でも特に苦労せず開けられはするが、それは言わぬが花である。
早速結からのオープナーを用いて、昌継が用意した赤ワインを開ける。
それをグラスに注いで、各自飲み物を手に取る。(なお、結の分はブドウジュースだ)
「「「乾杯」」」
細やかながらも温かな祝いの席が幕を開けた。
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結が夢の中に堕ちた後に、昌継は些か緩くなったワイン片手に、家に今日から鎮座し出したものに腰掛け、肘置き横のスイッチを押した。
「……おぉ」
背後から全身各部を揉み解すそれに微かな感嘆の声を漏らす。
「ーーどう? 心地は」
「凄い良いね。まさかマッサージチョアを用意してくれるとは思わなかったよ」
昔から変わらず足音を立てずに近づいてきた香織が結婚記念として購入したのは、マッサージチェアだった。
ここまで気分が良いとは……と自身が歳を取ったことを実感しながら昌継は変わらず微笑む。
香織もチェアの真横程まで来て、けれど何を話すでも無く、隣の夫を見つめている。
「…………ねぇ、昌継さん」
「何だい?」
「もう、13年経ったのね」
その声音は感慨深く、懐かしく、けれども苦々しい何かを孕んでいた。
「そう、だね……。でも、まだ13年さ。あの日の誓いはまだまだ続くよ」
「…………」
ーー例え何があろうと、君のそばにいる。一生涯、君の一番近くで支え続ける。
昌継からのプロポーズ。
香織の壊れかけていた心を段々と埋めていった。
恋人の心を救う言葉。
気を伺っていた昌継には、だが、その時以外の選択など無かった。
「ーー私、そろそろ戻るわ」
「………………うん」
それは二人の間にのみ通じる言葉。
乗り越えた様でいて目を逸らしていた過去との清算が待っている。
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