異世界魔法 裏
「――チッ…………」
女は一人焼き爛れ、未だ引き攣る腕の感覚に舌打ちをする。
「私が治してあげましょうか?」
「いらん。お前と私では組成が異なる。何があるか分からん」
「心配性ねぇ……。否定出来ないけど」
いつもの如くワインレッドのドレスを纏ったヒュアツィンテの申し出を、即時異なるラウム。
魔法の適性的には、ラウムよりも圧倒的にヒュアツィンテの方が治療には向いているが、制御に難がある。
特に身体に絡む魔法だ。危険度は高い。
「おいおい治せば問題無い。後遺症程度踏み倒せる」
「それは貴方の制御力あってでしょうに。本当にどんな技してんのよ…………」
さらりととんでもない事を言ってのけるラウムに若干引く。
「魔法具の形状変化は一応出来たのだろう? ならば、確実に以前よりはマシだろう」
「魔法具は魔力込めるだけでかなり楽になるからこそよ。じゃなきゃ、生物以外以外の操作なんて夢のまた夢よ」
ヒュアツィンテの持つ血色の槍、『ルイン』はダイバーやシャーロットの持っていた武装とは全くの別物だ。
だからこそ、無理が効くのだが。
「あれは、お前の魔力の塊だ。魔法の掛け易さはお前にとっては飛び切りだろうな」
「と言うかその魔法よ、問題なのは。魔法少女みたくイメージだけで使えない物なの?」
魔法少女達の魔法は、彼女達のイメージを魔力で現出させているものだが、ヒュアツィンテらの魔法は違う。
魔力で術式を編み振るう。
『術式魔法』と同系統の技術。
とは言え、使う術式が多少異なるが。
「魔力で術式を展開した方が高い出力で安定する。雑で楽な方へ進んだ人間共に対し、魔族は繊細で複雑なものを選んだだけだ」
ラウムが元いた世界の人間の魔法は、どちらかと言えば魔法少女達の魔法に近い。
イメージ等によって魔を振るう。
効果は低くなりやすいが、その分簡単に扱える。
「――そもそも、魔法少女共がイメージのみである程度の魔法を発動出来ているのは、奴等が変身アイテムと呼んでいる装飾品があるからだ」
「変身アイテム? あれ、結界、身体強化、隠蔽だけでしょう? どうして繋がるのよ」
変身アイテムと呼ばれているが、あれらの実態は、『対物結界』『対魔結界』『身体強化』『隠蔽』それら4種の魔法に魔力を供給する為の、周囲から魔力を吸収する『魔力吸収』、アイテムの形状を所有者の心象によって変化させる魔法、魔法具などの魔力を格納し展開する魔法の計7種の術式が刻まれている。
とされていて、魔法少女が主に魔力を使うのは魔力吸収魔法だと思われている。最初に魔力を込めた場合は、それぞれの魔法の展開を行い、『魔力吸収』によって周囲と使用者から一部魔法の常時発動用の魔力を集め続ける。そのキーとなるのが変身口上だったりする。
だが、実際には追加で、所有者のイメージに沿って術式を自動で形成する魔法術式が最奥に刻まれており、これが最重要なのだ。
細かい話をすれば、魔法少女が変身している時に消費する魔力の7割程は、自動術式形成魔法で消費されている。
吸収魔法を使っていても、かなりの魔力を食うのだ。
なお、魔力を特定の適正に染め上げるのは、その魔法が初変身時の溢れ出る膨大な魔力で超高性能化するからだったりする。
「魔法を展開する手立ての無い人間に対して地球から与えられた武器。神話のようだろう?」
「話は分かったし、神話っぽいのも納得出来るけれど、あなたがその例を出した事には納得いかないわ」
魔法少女と同じになるつもりは無いので、粛々と術式を編む事にしたヒュアツィンテのジト目にラウムは面倒そうながら笑って答える。
「無論信じてはいないが、今際の際に神に縋る奴らを見てるとかなり愉しいからな」
「流石にドン引きよ」
厳密には、地球の防衛機構のようなもので生まれた妖精とそれらに生まれ付き刻み付けられていた変身アイテムの作成能力が、与えられたものなのだが、今回の場合は関係無い。
「それで、次はどう動くの?」
「お前は制御を磨け。その間に、やりたい事がある」
ついこの間、魔法少女二人に押し負けたヒュアツィンテは鍛錬。
ラウムのような人でなしも便利な手駒は捨て難いのだ。
「やりたい事?」
「鍛錬もついでに出来て、良い手がある。まずは――」
続くラウムの言葉に、少女は二重の意味で驚くのだった。
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今後も読んでくださると幸いです。
なんで私は敵側サイドで味方側の設定出しているのだろうか…………?




