異世界魔法 表
「魔石に魔法陣を刻む事で、魔石の魔力を用いて魔法を常時発動させることが出来る」
「……ただ、肝心の刻み方が分からないから呼んだのよ」
魔法局支部、その地下にて、数人の研究者に囲まれた状態で、二人の少女が幾つかの石が並べられたテーブルを挟んで、座っていた。
「技術的に出来る人には簡単。魔石の魔力を押し除けながら、魔力で魔法陣を刻み付ける。具体的には結晶化した魔力を内部から僅かに削り出す事で、路を形成する」
「……描くでなく、削るか…………。流石に思い付かないわね。必要な技術レベルは?」
今まで、明含む面々は魔石に魔法陣を魔力を以て描く方向で考えていたが、それは全くの間違いだった。
「明姉の魔力制御なら初めてでも失敗は無い、と思う。ただ、魔力をかなり圧縮した状態で細かく制御しなきゃだから、割と大変かも…………?」
「コイツも奴だからこそ、刻めたと言う訳ね…………」
鳴音の説明を受けて、机の上の魔石、それも先のラウム戦の後に地面に埋められていたのを取り出した物を、指先で弄びつつ、嘆息混じりに明が溢す。
ラウムが用いた空間干渉式の檻の魔法陣は、その他の物とは比較にならない程に精緻であった。
「その魔法は、ラウムだからこそだけど、他はそうでも無いよ。魔石の質は嫌に良いけど、魔法陣自体は子供でも刻める」
鳴音の衝撃発言に、周囲が響めく。
ただ一人、明だけは極めて冷静だった。
「ノウハウさえあればできない話じゃあ無い、か。鳴音、貴方の前世?と言えば良いのかしら。兎に角、ラウムが元いた場所での魔法技術について詳しく話して」
空間干渉とその副産物的に得た魂への限定的干渉。
その二つによって、ラウムが行ったのは分かっている範囲で、以下の通り。
①ダイナと言う名のラウムの娘を殺害及びその魂を疑似的に物質化して保存
②世界の隔たりを強引に破壊して、今鳴音や明達のいる世界へ(理由は不明)
③ダイナの魂を生まれたばかりの鳴音の肉体に投入(恐らく組成から異なる肉体に入れた際の反応を調べる為)
④今に至る
ここで大事なのは、異世界から強引にこちらの世界へと渡ってきたと言う事。
手法は空間干渉。
場所も簡単に推測が付いた。
兎も角、元いた世界でも魔法があったのは明白。
その魔法の技術についてだが――
「言霊に近い感じ。詠唱を以て、魔力で術式を編み、魔法と成す。それで、魔石に魔法陣を刻む用の詠唱を別途用意して刻んでいた」
例えるのなら、
Aと言う魔法を自身で使用する際の詠唱をaとして、Aを魔石に刻む際の詠唱はa'と言うふうに同じ魔法でも異なった詠唱を使い、必要な技術レベルを下げていた。
「私達と何が違うの?」
「――良く、見てて」
明が『術式魔法』で『魔を垣間見る』を展開したのを確認して、鳴音は人指し指を軽く上げる。
「『灯火よ、闇夜を照らせ』」
詠唱による魔法発動。
少女の指先に、蝋燭程の火が灯る。
「絶唱の魔法に近いのかしら?」
「……うん。シンフォニアさんの魔法は多分、詠唱によって速度を犠牲に性能を跳ね上げてるはず…………」
絶唱の魔法少女 シンフォニア。彼女の魔力特性『奉唱』は、言葉を以て、魔法の性能を引き上げられるものだ。
彼女は祝詞のような言葉とともに、高火力の攻撃魔法から治療、拘束、強化など様々な魔法を駆使して戦う現状の遠距離特化魔法少女最強格なのだ。
それはさておいて、だ。
「術式見えた……?」
「ええ、私達のそれとは違うようだけれど、確かに」
「うん。さっきのが詠唱。これによって、誰にでも簡単に魔法を使える世界。この魔石達はその産物」
誰にでも。
その言葉に食い付いたのは、周囲の研究者達。
自身で魔法が使えるかもとなれば、飛び付くのは道理とも言える。
「魔力量とかにかなり左右されるけど、出来ないことはない。後で詳しく纏める」
なお、この場合の魔力量は少なくても出来ないことは無いが、発動出来る魔法は限られてくる。
だが、魔法少女になるようにスカウトされた者以外でも魔法が使えるとあれば、かなりの利益と相当な厄介ごとが予想される。
一旦咳払い(不必要)を挟んで、鳴音は話を再開した。
「双方の術式の差異は、詠唱の有無によるものだから気にしなくて大丈夫。問題はこっちの方式ではイメージや詠唱でどうこうできないから、自力の魔力制御で刻まなきゃな事」
残念ながら、詠唱による魔法発動は魔法少女にはかなり難しい。
その為、まずは自力で刻む他無い。
「せめて、私達全員分位は試作品が欲しいわね」
「簡単な奴から、弱い魔石で試そうか…………」
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