視線の中身
「美勇さん、どうかしましたか?」
「いんや? 居たから声掛けただけだよ。今何中?」
「両親の結婚記念日の贈り物を買いに」
美勇は買い物袋を手に持っている程度で、その他の荷物は見当たらなかった。
そして、特に意味も無く結に声を掛けたらしいことは、人付き合いが決して得意と言えない少女にも良くわかった。
にこやかな、と言うよりは人懐っこい笑みを浮かべていた美勇だったが、結の回答で少し、ほんの少しだけそれが陰った。
それこそ、結が守美子との会話で勧められた魔力による目の強化を常時行なっていなければ分からないほどに、少しだけ。
「美勇さん?」
「ん、ごめんごめん。ぼーっとしてた」
誤魔化してはいるものの、誤魔化し切れてはいない。
微妙に居心地が悪くなったのか、焦り気味に、美勇は手に持った買い物袋を軽く持ち上げた。
「私はちょっと調理器具が壊れてさ、買いに来てたんだ。これ見た事ある? 野菜とかを微塵切りにする奴なんだけど」
美勇が取り出したのは、蓋付きの器の中に野菜を切り刻む為の回転刃があるものだ。
「家にもそれありますよ。凄い便利ですよね」
「だよねっ。これの刃が割れちゃってさ、気分転換がてら買いに来たわけ」
香織がいつもぶん回しているし、結も時たま使うので、彼女にとってはお馴染みのものだ。
そして、気分転換と言う言葉に思い当たる節があった。
「気分転換って、お勉強のですか? 美勇さん今年度高校受験ですよね?」
「そうそれ。まあ、そんなにレベルの高い所行きたいわけでも無いし問題無しってね」
魔物の出現及び結界による街の隔離によって、進学が困難になるかと思われたのだが、各校がリモート授業によるコース(卒業資格は同等)を設立した為に、寧ろ進学出来る高校は魔物出現以前より増えたくらいだ。
「魔法少女と両立するの大変では?」
「言う程かな? 元々魔法局に所属する前から戦ってたし。これでも魔法少女歴3年目だからね」
実際の話、美勇の魔物との戦闘経験は結のそれを上回っている。
流石に対人戦を含めると日頃から手合わせとして魔法少女同士で戦っている結には数では劣るが。
そうして、人があまり居ないところに移動してからも会話を続ける事、約10分。
「――結、お知り合いかい?」
背後から昌継の声が聞こえた。
「あ、お父さん。……良いのあったの?」
「そっちが大丈夫なら一度集まろうと連絡したんだがね。その様子だと見てなかったみたいだね」
ピクリとごく僅かに美勇の眉が動いた。
結の「お父さん」の声の瞬間。
気にはなったものの特筆して言及する必要性も感じなかったので会話を続行する。
少し呆れの混じった昌継の指摘通り、結のマギホンには連絡がきていて、彼女は気づかずに居たのだった。
「えっと、美勇さん。こちら私の父親です」
「加集 昌継です。娘がお世話になっております」
結の紹介の後に一歩前に出て、一礼。俗に言う分離礼と言うものだ。
「――あ、えと、蕗原 美勇、です…………」
一筋。
少女の額から汗が流れた。
弾かれたように支給されたマギホンで時間を確認してから、早口で言葉を紡ぐ。
「すみません。私はこれでっ」
「あっ、美勇さん……?!」
目にも止まらぬ速度で背後へ振り返りざまにダッシュを敢行する。
結の静止も耳に届いていないのか、敢えてなのか一切速度を緩めずに駆けていく。
「お父さん、また機会があったら改めて紹介するね」
「うん。彼女が嫌で無いのなら、いつかね」
何とも言えぬ雰囲気の中、親娘二人はそれぞれの荷物を手に家に向かった。
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