魔人化とは
「――魔人は、魔族――今この世界にいるのはラウムだけだろうけど――の眷属であるヒトの総称。『魔人化』とでも言うべき肉体改造・洗脳の複合魔法によって魔人にされる。けれど、緻密な魔法だから、魔法少女なら魔力で簡単に跳ね除けられる」
曰く、肉体改造は身体能力・魔力回路の性能の恒常的強化であり、基が鍛えていない人でも、アスリート並みのスペックに早変わりなのだとか。
けれども、世の中にメリットだけのものがあるはずが無い。
魔人化のデメリットは、単純。
元の性能依存で、身体が壊れていく。
人のスペックが高ければ高いほど長持ちするのだ。
逆に言えば、使い捨てにするのなら別に誰でも良いのだ。
「……それって………………」
「――うん。最初に確認された魔人、ダイバーは恐らく…………」
元々の魔法的性能が低い男性なのだから、結果は火を見るより明らかだ。
「鳴音、少し良いかしら?」
「私も気になる点が一つ。明と同じ事でしょうが」
暗い雰囲気の中、年長者組が徐に手を挙げた。
二人は顔を見合わせて、代表して明が最大の質問をする。
「彼らの膨大な魔力はどこから来ているの?」
魔人と戦ってきたからこそ分かる。
彼らの魔力量は、はっきり言って可笑しいのだ。
ダイバーも、ツヴァイ(シャーロット)も、ヒュアツィンテも、あり得ないレベル。
全員が全員、魔法少女最高レベル以上の魔力を備えているなど、あり得ない。
特に男性のダイバーなど確実に国が動くような人材だ。
だと言うのに、遺体から検出されたDNAは、ただの一般市民のそれ。特筆して魔力量が多いと言う記録もない。
だからこその二人の疑問。
「魔力の話の前に、少し前提知識がいるかな…………。まず、ラウムは魂への限定的な干渉が可能なんだ」
「魔力特性の話、ですか……?」
いまいち要領を得ず、当人でも合っているとは思えない答え合わせをする結。
「ううん、特性とでも言うべきなのは空間干渉魔法の方。それを使える様になったから副産物みたいな形で魂への干渉も可能になったの」
これを言った当人もかなり限定的だが、魂への干渉は可能である。
こともなげに伝えられた空間干渉と言う言葉に空気が些か凍りつくが、鳴音は続ける。
「……あ、ちょっと話す順番間違えたけど、魔力を生み出しているのが魂ね?」
「――さらっととんでもないこと言うね。まあ、良いけどさ。……で、魔力の源の魂を弄って魔力を多く出すようにしたって事?」
「大体それで合ってる。ついでに、魂への干渉で元々の魔力量が少ないと洗脳も強くなってるかも」
話の次元の急激な変化に若干引きつつも、鳴音の話を継いで美勇が纏める。
だが、鳴音は、ある一つのことを言わなかった。否、言えなかった。
ラウムの魂への干渉は必ず無理が生じる、とは。
兎も角、要約すると――
「敵の大元は空間干渉を用いるラウム。その下に、洗脳及び強化の施された使い捨てに近い眷属が最低二人、と言うところですか」
守美子が最終的に纏めたが、かなり状況が悪いと言わざるを得ない。
今の所、敵は彼女達の街を集中的に攻撃してきており、戦力的には最低でも二対一(二が魔法少女)は本気で戦うのなら必要だ。
「………………あの、洗脳の有無って分かりますか?」
「…………確認する相手による」
不安や恐怖が入り混じった瞳。
それに対する鳴音は少しばかり言い難そうだっ。
「結が言いたいのは、ヒュアツィンテ――綾生さんの事でしょう? 鳴音、これは私の感想ですが、彼女は他の魔人よりも洗脳が薄いか、最低でも洗脳の形態が異なる様に感じます」
「具体的には?」
守美子から飛んできた追加説明に対して、更なる追加を要求する。
流石に具体例が必要だった。
「ダイバーとシャーロットの二名は、回避行動などは取っても逃走はしませんでした。特にシャーロットなどは向かっていく私に対する怯え方が尋常ではありませんでした。これは洗脳によるもの、違いますか?」
「……多分、そう。ヒュアツィンテは逃げたから、違うって事?」
ダイバーの方は本人の気性による可能性はあるが、シャーロットに関しては言い逃れ出来ないレベルだ。
壊すことに固執しているようで、けれども守美子達への攻撃の分配を変えたりなど柔軟性も多少見せた。
だと言うのに、逃げようとしなかった。シャーロットが戦闘の素人でも逃げると言う選択肢くらいはあるはずだと言うのに。
鳴音の確認に、首肯する守美子。とついでに結。
「…………なら、可能性としてはある。洗脳が薄い方が、この場合一番良いんだけど………………」
これ以上は実際に対面してみないことにはわからない。
「兎に角、よ。洗脳云々より先に私達は負けない程度には強くならなきゃいけないわ」
暗くなった雰囲気を晴らすように、パンと一拍掌を打って、明は特に美勇と結を見て――
「魔力制御と体術を並列して鍛えるわよ。キツイから覚悟しておきなさい?」
訓練だと言うのに、些か獰猛な笑みを浮かべたのだった。
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