最強の記録
四章始まります。
何気に後半戦の開始という。
「これは、僕達が高校生の頃に最強と呼ばれていたこの街の魔法少女の映像だよ」
二学期のある休日、加集家には謡が訪れていたのだが、いかんせん加集家に複数人で楽しめる娯楽が少なかった。
結の趣味で本は中々の数があるが、それは流石に友人と遊ぶとは違う気がした。
加えて結の読書時間が減り、面白い本の話なども、些か盛り上がりに欠けた。
何か面白いテレビ番組でも無いかと適当にチャンネルを切り替えてみたが、昼間から然程面白いものは無かった。
そんな時に、偶々休日で家にいた昌継が見かねて、古い記録媒体を引っ張り出してきた。
それは、しっかりと謡と結の好みに即していた。
結の場合は、好みよりも仕事に近い気がするが。
「20年前と言うと、絶潰のクリムゾン・アンドロメダさんとかですか?」
「娘の友人から聞くとは思わなかったけれど、正解だよ」
すらすらと出てきたその名前に昌継は僅かに目を見開く。
彼女が事実上引退したのは結達が産まれる前なのだから、ここで言及されるとは思いもよらなかった。
「ーーあっ、思い出した。確かSランクの人の名前が載ってるので見た事ある」
「結は魔法局とかで聞いたのかい?……まあ、その人の映像記録だよ。ブレてるし、画質も低いけどね」
そう言いながら、昌継はテレビで映画を再生し始めた。
今までの反応で、二人に興味があると確信した。
なお、絶の文字がある時点で、Sランクは確定なのだが。
「うたちゃん、具体的にどんな人だったの?」
「徒手空拳で戦う人でね。今最強の魔法少女と言われているアスタークレセントさんが頭角を現す前まで、10年以上その時に戦うことの出来る魔法少女の中で一番強い人だったんだよ」
謡の説明の通り、クリムゾン・アンドロメダは今までの全魔法少女(日本国内に限る)の3強の内の一人だ。
ちなみに他ニ名は、『火雷の魔法少女 バーニングボルテージ』(初代最強)、『断絶の魔法少女 アスタークレセント』(3代目)となっている。
要は怪物中の怪物である。
クリムゾン・アンドロメダは他二人よりもよっぽど怪物だが。
「ーー魔物見た事ないくらいデッカいんだけど…………。街の結界が弱いとは言え、これは流石に…………」
「昔は魔物自体が全体的に今よりも強かったらしいからね。なんか『人滅龍』の出現地点に理由があって、そこの上空から魔力が溢れてるみたい。……それで、その流入が映像当時多かったみたいで」
映像に最初に映ったのは、10階建てビルと然程高さの変わらない魔物。
ここ5年はこのレベルのサイズは、この街周辺には出ていない。
まあ、映像の魔物は、当時でも出て数ヶ月に一度なレベルだが。
映像の中では魔物がビルを破壊仕掛けていた。
瞬間、地上から一筋火柱が上がった。
実際の炎と言う訳ではない。
それは一直線に30m程の高さにある魔物の顔面に正面衝突した。
揺れる魔物。
ブレる映像。
轟音が映像ごしに伝わってくる。
(……魔力放出特有の魔力の拡散が少ない。だとするとーー)
「身体強化特化…………」
「流石本職。アンドロメダさんは完全身体強化特化の魔法少女だよ。圧倒的な身体能力でインファイトするんだ」
魔法少女の衣装として展開されている身体強化魔法とは別に強化魔法を展開している。
ついでに、全身に纏った炎の様な真紅の魔力による強化もある。
結が映像の魔物に全力強化で攻撃してもアンドロメダ程の威力にはならないだろう。
加えてアンドロメダは初撃なのだから、本当の意味での全力でもない。
一拍空けて、また加速する。
圧倒的な身体能力と魔力放出によりロケット宜しく魔物の懐に飛び込む。
瞬間十八連。
拳が抉り、脚が削る。
魔物がよろめいて一歩下がる。
その時には既にアンドロメダはその後方にいた。
再度衝撃により加速して、真紅の炎で魔物の背を蹴り砕く。
魔物がたたらを踏む。
その間に地に脚を付け、思い切り踏み切る。
道路が蜘蛛の巣状にひび割れて暴風が伝播する。
アンドロメダの拳を真紅が覆尽くす。
今度のそれは、今までとは大きさも勢いもそれこそ桁が違う。
カメラの機能を飛び越えて振るわれた一撃は、ただ破潰され倒れ伏す魔物という結果のみを残した。
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「えぇ…………。何あれ……?」
「大体の人が今の結ちゃんと同じ反応になると思うよ。と言うか本職だからこその驚きもあるのかな?」
「そりゃあね。あんな身体能力見たこと無いよ。最後の一撃多分『起源魔法』だよ。あそこまでの破壊力のも聞いたこと無いし」
結があった者の中で、身体能力が最も高かったのはダイバーであった。
彼は魔力特性による魔力放出の強化があったからだが、アンドロメダは純粋な身体強化。普通に可笑しい。
出力の高さもそうだが、燃費もイカれている。
身体強化魔法に限れば、ガルライディアの10倍近い効率でアンドロメダは使用している。
(――懐かしいな…………。あの後か………………)
映像を見ながら、わいわいと楽しげに話し合っている娘達を横目に、昌継は映像当時に想いを馳せていた。
――かつての友に。
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