黒花 Ⅳ
『弾け舞う小火』に焼かれたラウムの苦痛に溢れた声が魔法少女達に届く。
「――畳み掛けるわよ!」
「うん……!」
「オッケ――!」
三者三様の遠距離攻撃が夜闇を照らす。
けれども、それは意味を為さ無い。
「早いわね…………」
「――殺してくれるっっ! モルモットの分際でぇ…………!!」
復活が早い。
『弾け舞う小火』は決して火力が低い訳ではない。
それが直撃したのだ。幾ら膨大な魔力があったとしてもダメージは大きいはずだ。
だが、ラウムは即時放たれた魔法に対して完璧な対処を見せた。
なお、当人は怒髪天を突いているが。
「モルモットらしくプイプイ言いながら、戦ってあげよっか? 今度は噛まれないかもよ?」
「……それ、モルモットが甘える時の鳴き声。ファル姉、甘えるの?」
「……エレク、問題はそこじゃないわ」
ファルフジウムの煽りに対するマジレスがエレクからジト目とともに与えられる。
セージゲイズも加わってなんとも緊張感の無い会話となった。
「――――――ッ。死に絶えろ…………!」
腕を雑に真横に振るう。
それに呼応して、ラウムの後方に数えるのも億劫な程の魔法が顕現する。
その属性は――
「火、光、土、雷……どれだけあるの…………?」
「主要な属性は全てあると思いなさい! 隙間は埋めるわ。薙ぎ払って!」
セージゲイズの叱咤及び指示の通り、ラウムが展開した魔法の属性はバラバラだ。
なお、彼女だからこそ明確に判別出来るが、風属性や空間干渉の魔法も散りばめられている。
ラウムの数の暴力に負けじと、セージゲイズは魔力弾を限界まで展開して、即時射出する。
一瞬遅れて、エレクの雷撃とファルフジウムの斬撃が空を切り裂く。
二条の光の隙間から迫る攻撃の数々を魔力弾で対処していく。
だが、ラウムからの攻撃が一度で終わるわけが無い。
迫る殺意の密度は変わらないどころか、段々と増えていく。
「……ああ、もうっ――!」
増えていく攻撃に対して、ファルフジウムの討ち漏らしも比例的に増えていく。
そもそもの魔力の射出が不得手なのだ。最初に限界が来るのも頷ける。
苛立ちを覚えながらも、その状態を継続しなければならない。
動きながらでは、迎撃の精度が落ちる。
前に進めば密度が増して蜂の巣だ。
後退しようにも、全員が何となく分かっていた。
自身らがいるのは実験動物用の檻の中であると。
増えに増えた討ち漏らしを徹底的に捌きながら、セージゲイズは感覚を外へと広げていた。
視界に入ったものは全て分かる。
けれど、一度外に出られると解析も何も出来ない。
だからこそ眼以外の感覚でその穴(周囲約240度)を埋めるのだ。
苛烈さを増し続ける殺意の数がほんの一瞬だけ和らいだ。
その一瞬に何があったか、備えていた彼女だけは分かった。
「――ファルフジウム、真上、全力攻撃!」
「――えぇ……?! 抜けさせないでよ?!」
急な指示に驚きつつも、自身らの上空にあるものを確認したファルフジウムは、バックルのボタンを殴るように押し、すぐに変身アイテムを剣のソケットに叩き込む。
『Nova・Brave・Blade!!』
収束し膨れ上がる。
剣身の形を覆い隠して、揺めく光を纏う。
一閃。
放たれた閃光は、上空に展開されていた空間湾曲魔法を破砕する。
けれども、魔力的な気配は未だ残っている。
(――複数展開していたのね……! 下側が駄目でも上は間に合うように――――!)
無理矢理に隙を作り、セージゲイズは魔法を仰ぎ見る。
その時間を作るために魔力弾は全て使い切った。
発動まで数瞬も無く、それでも間に合うであろうエレクは、迫り来る攻撃を迎撃した直後である。
最早誰にも間に合わない。
上と横双方からの集中攻撃を受ける事を覚悟して、防御に魔力を割き始めた瞬間、それらは来た。
方や、少女らの後方より飛び出すと、三名の前に滑り込んで、白磁の障壁を展開する。
方や魔力を滾らせて、紅の閃光にて上方からの衝撃波を吹き飛ばす。
「遅くなって申し訳無いわ」
「皆んな、無事ですか?」
ここに、漸く隔てられていた少女達が集ったのだ。
「……ヒュアツィンテを片付けてきたか……………」
「残念。奴なら尻尾巻いて逃げてったわよ? あてが外れたかしら?」
「巻いたの尻尾じゃなくて槍だったけどね」
策に対処された挙げ句、追加戦力の登場に、流石のラウムも眉をひそめる。
なお、ヒュアツィンテが逃げた理由などグラジオラスは知らないが、相手への精神攻撃になりそうだったので、少し誇張しておく。
負けることはなかっただろうが、槍の形状変化らしきものの自由が効くとしたら、もう少し到着が遅れていたことだろう。
「――――グラジオラス、ガルライディア…………」
「エレク、貴方に何があったのかは今は聞きません。ただして欲しい事を簡潔に伝えてください」
「二人、前衛を頼む……! トドメは――――任せろ」
エレクの調子も戻ってきた。弱い己を覆う鎧が段々と修復されてきている。弱さを受け止める者がいる時点で最早不要ではあるが、当人の気分の問題だ。
エレクの頼みに、それが聞きたかったと、にぃとグラジオラスの口元が戦意に歪む。
「一撃だろうと、通しませんから安心しなさい。……それと、頼みます」
「右に同じです。エレクさんいないと寂しいですし、もう居なくならないでくださいよ?」
背を任せるに値する。
そう言外に伝えられた気がして、エレクの胸を温かさが満たす。
『敵の情報を共有しておくわ。まず――――』
セージゲイズからの情報を聞きながら、遅れてやってきた魔法少女二人は臨戦態勢に入る。
「――ガルライディア、魔力を振り絞りなさい………!」
「はい……!」
豪、と残り少ない魔力を燃やす。
少女は、二人、背を仲間たちに任せて、一歩踏み出した。
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