黒花 Ⅱ
黒く暗く、人一人とて存在しない。
暗雲が立ち込めて日輪が覗く事は無く、地は荒廃し在るのはただの更地だけ。
暗雲からは常に雷鼓が唸り、それによって人を焼き尽くした。
――私が人とは違うから。
――私が人でないから。
神鳴りが自身である限り、彼女の世界に人影は無い。
そのはずであった。
だと言うのに――
「――どうして来たの? そんなの決まっているでしょう」
「たしっ、かに――ね……!」
大気の炸裂にかき消されたと思われたエレクの言葉は、しかと幼馴染み二人に届いている。
若干の怒気が籠もったセージゲイズの声に、剣を振るいながら同意するファルフジウム。
襲い来る衝撃波の間を縫うタイミングで、二人揃って笑みを見せた。
愛しさに眼を細めて微笑むように。
歯を剥き出して見せつけるように。
「「鳴音を助けに来た」」
偶々揃った声がエレクにも届く。
嬉しくはある。
けれど、それでは駄目なのだ。
せねばならないことがあるのだ。
「……――わ、私は、人とは違う……! 皆んなとは違うっ。私は魔族として」
「――知らないわよ。人とは違うのなんて当たり前よ。寧ろ一般的に『普通』とされる要素しか持ち合わせていない人間のほうが少ないに決まっているじゃないの」
十人十色とはよく言ったもので、全く同一のものなどありえない。
異常の範囲は正常よりも広く、それに該当する場合が多いのも当たり前だ。
「……まあ、まず何が一般的に普通なのかを考えなきゃだけどね……! 大きなズレがあったら目立つけどね、それでもズレの無い人はいないと思うよ? クローンでも無理でしょ」
セージゲイズに茶々を入れつつ、軽い調子で論を補強する。
クローンは肉体的なものなので、エレクが抱えている精神的なギャップとは論点がズレているが、そこにはセージゲイズはあえて触れない。
触れたら寧ろ逆効果だ。
「そうは言うがな、小娘ども。そこにいるダイナは私とともに数多の人間を殺して回った魔族でな。肉体的には兎も角、魂は完全に魔族のそれだ。…………そして、もう調べ終わったぞ」
瞬間十連、衝撃波を放って、追加で魔法少女達の周囲一体の空間を歪める。
『遠距離!!』
魔力の流れから衝撃波の発生から一瞬早く、ファルフジウムに指示を『念話』で送りつつ、セージゲイズは瞬間に操れる限界まで魔力を振り絞って、魔力弾を大量に展開する。
「穿ちさなさい……!!」
一気に放って衝撃波を迎撃する。
今まで一発で対処しきれていたのに、現在では二発は必要になっている。
(どれだけ手加減されていたのかが、分かるわね……!)
歯噛みするセージゲイズの横で、ファルフジウムは携帯を片手に、バックルのボタンを押下。
即時柄のソケットに携帯を落とし込む。
『Nova・Brave・Blade!!』
ファルフジウムの剣が輝きを示す。
セージゲイズが一気に身体を下に落とす。
「――ハァッ……!!」
旋回。
一閃。
身体を回して、周囲を斬り飛ばす。
剣から放たれた閃光が周囲を取り囲んでいた空間干渉を打ち破る。
「――ああ、言い忘れていたわ。人殺しだろうがなんだろうが、この子は私の家族よ? 助けない理由にはならないわ」
「友人枠として同じく。昔の……ダイナ、だっけ?が人を殺してても、今の神崎 鳴音、エレクはやってないんだし。寧ろ守る側だしね」
――幾度の雷撃を受けても、消えぬ灯火が一つ、二つ。
――日輪の覗かぬ世界を照らす。
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