再開&問答 Ⅱ
「……綾生…………」
ヒュアツィンテを目の前にして、ガルライディアは何を言うべきかわからなくなった。
言いたい事は沢山ある。
けれども、それらは口から出ていかない。
「私は魔人ヒュアツィンテであって、アヤミとやらじゃ無いわよ」
「それだと結の名前を知っている事に説明が付かない」
ヒュアツィンテの断固とした否定に対して、グラジオラスがガルライディアの代弁者として、魔法少女として、口を開く。
――そりゃ、そうね。
その言葉は口の中だけで、
魔人は、己の過去の所業、しかも自身でも何故そうしたのか分からない行いを認めざるを得なかった。
「……そうね。認めるわ。私は確かに白川 綾生だった」
「…………今は、違うと?」
「過去は捨てたわ」
事も無げに、ヒュアツィンテは自身の出自を認めた。
加えて、もう自身は異なるとも語る。
「じゃあ、どうしてあの時、私に声を掛けたの?」
けれど、それは否定された。
先程まで、まともに会話できる状態で無かったガルライディアによって。
「――さあ? 何ででしょうね?」
はぐらかし、ヒュアツィンテは本題を切り出した。
「今、仲間……と言っていいか分からないけれど、兎も角、そいつの用に付き合っていてね。貴方達がそちらに行かないようにしなきゃなのよ」
「――だから、死になさい」
血色の槍を手に持って、構えもせずに、強化された身体能力のままに、攻撃を仕掛ける。
狙いは、グラジオラスだ。
「死んでやる訳には、いかないんですよ」
ジャリリ、と小太刀と槍が軋みを上げる。
血に似た黒赤と純白の魔力が互いに互いを削り合う。
(先に私とはね。遠距離担当は比較的近接が脆いのだから、ガルライディアを狙ってくると思っていたのだけど。……いえ、それとも狙わない理由がある…………?)
槍での一突きを、小太刀で逸らし、グラジオラスは一閃を放つ。
ガンッ、と硬質な音が響く。
「――――?!」
確実な身体へのクリーンヒットだったはずだ。
魔力を纏い、より鋭利となった『唐菖蒲』で、人体を切り裂けない。
それどころか、斯様な音さえ生じるとは。
「……馬鹿げた魔力量ね」
「でしょう? これはこれで不便なのよ?」
圧倒的な魔力量。
その量は、グラジオラスが今まで見てきた中でも、二位とは比べ物にならない程。
ヒュアツィンテは、その膨大な魔力で身体中を満たす事で、肉体強度や身体能力を底上げしているのだ。
彼女の特性的な面もあるが。
だが、彼女はそれをなんて事ないように言う。それこそ、どうでも良いように。
世の魔法少女達が聞けば、ブチ切れそうな話だ。
魔法少女にとっての魔力とは、武器であり、治療用の道具であり、補助具でも、ある。
要はあれば、ある程良いのだ。
『ガルライディア、相手はちょっとやそっとじゃ傷付かないから、牽制だけでもお願い』
『――――――。……うん』
グラジオラスとしては心苦しいけれども、ヒュアツィンテを相手にして、ガルライディアが戦えないのは、相当に痛い。
拒否すら覚悟していたのだ。
牽制の了承だけでも貰えたのは重畳と言う他ない。
『念話』で合図を送り、一斉に攻撃を開始する。
ガルライディアが向かって右、グラジオラスは左に展開して、攻撃のタイミングを揃える。
ヒュアツィンテは、防御など不要と槍でのグラジオラスへの攻撃のみをする。
そこを突く。
槍が繰り出される瞬間、グラジオラスは一歩間合いから退く。
空振ったヒュアツィンテの足元に魔弾が衝撃を発生させる。
『衝撃』によって、崩れた体勢のヒュアツィンテの腹に、グラジオラスは思い切り蹴りを叩き込む。
「――――ッ!」
(硬い。……けれど、重くは無い!)
無言の裂帛。
ヒュアツィンテは、10数m程を転がりながら移動する羽目になった。
畳み掛けるガルライディア。
ヒュアツィンテの背後約120度を魔弾で塞ぐ。
ヒュアツィンテの行動を、前進に固定する。
「死になさいっ――!」
起き上がりながらの刺突は、斜めにガルライディアの心臓を狙う。
幾らガルライディアが胸部にプレートアーマーを装備していても、ヒュアツィンテの莫大な魔力で赤黒い揺らめきと化した槍は防げない。
だから、逸らす。
『フライクーゲル』二丁を交差させ、槍を上に乗せるように抑える。
ギリギリと魔力の軋みに照らされながら、彼女達は数年振りにまともな距離まで近づいた。
まさに、学校で机を挟んで座っていた際のような距離に。
「――綾生、どうしてこんな事をしているの?!」
「魔法少女が嫌いだからよ」
顔を限界まで近づけて、今まで聞きたかったことを聞く。
頭上で保持しようとする力に真っ向から対抗しながら、ヒュアツィンテは淡々と答える。
「今まで、どうしてたの?」
「適当に生きてたわよ」
「適当、適当かぁ。――良かった…………」
なんて事はなく、実際他者が聞けば軽く流すヒュアツィンテの回答は、ガルライディアにとって、大きな意味を持っていた。
思わず、笑みが溢れる。
戦いの最中だと言うのに、口角はだらしなく緩み、緊張感も同時に無くなりかけていた。
「……何、笑っているのよ?」
「適当に生きてたって、身体良くなったんだね」
「――――ッ?!」
互いに今は敵同士。
少なくとも立場上は、そうであると言う他ない。
けれども、やはりガルライディアにとって魔人 ヒュアツィンテは今も昔も友でしか無いのだ。
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