花々 Ⅰ
めっちゃ長くなった。
深夜、何故か目が覚めたた。
明は、暗い自室にて、むくりとベッドの上で身を起こした。
「…………水、取ってくるか……」
ふらふらと覚束無い足取りで、LDKの繋がった部屋へと向かう。
そこに着くと、リビングのテレビが付いていて、傍には男性が一人いた。
「……お父さん、おかえりなさい」
「明か……。どうした、こんな夜更けに」
明の父、博文は訝しむように娘を見た。
明の眠りは深く、加えてロングスイーパーの気がある。
0時を過ぎた時間帯に起きているのは、極めて稀だ。
「……なんか、目が覚めちゃってね。水でも飲もうかと」
「茶でも淹れるか?」
「良いわよ。冷たい方が良いわ」
ぶっきらぼうな父の言葉に、苦笑を残しながら、彼女は水道から水を出して、コップに入れて、一気に煽った。
なお、口下手具合は大差無い。
「お父さん、お休みなさい」
「……ああ、身体冷やし過ぎるなよ」
僅か二分。
親娘の会話はそれっきり。
互いに口数が少ない為か、睡魔と疲労で喋る気が無いだけか、どちらもか。
これで良いのかと言う考えと、こんなものかと言う思いが同居している。
明は自身にも苦笑をこぼしつつ、寝る前にもう一度鳴音の様子を見に行く。
(魘されていないと良いのだけれど…………)
ここ最近の少女の様子から考えるに、無理そうだ。
自身では対処出来ない事への諦めと、何とかしてあげたい思いも、同居している。
矛盾を抱えながらも、鳴音の部屋の扉をそっと開ける。
暗闇の中、ベッドへと近づく。
そこで初めて気がつく。
ベッドが空だ。
「ーーーー!」
弾かれたように廊下を駆けて、玄関に向かう。
そこにあるはずの鳴音の靴は見当たらない。
「どこへ………………」
視界が一層暗くなったような錯覚に襲われるが、判断は流石に歴戦の魔法少女といったところか、迅速だった。
廊下を即時逆行して、今度は自室に飛び込む。
手探りでマギホンを引っ掴み、魔法少女達に一斉メールを送る。
焦りが誤字を生み、更に加速させる。
なんとか鳴音の現状と協力願いを添えて、送信ボタンを乱暴に押下。
着替えている暇など無い。
上着一枚を雑に纏って、玄関へと逆戻り。
「明、さっきからどうした?」
「鳴音がいないのっ。探しに行ってくるわ」
父の横を駆け抜けて、靴に足を突っ込む。
父親の様子なんて気にしていられない。
ドアを肩からぶつかるように押し開けて、アパートの手すりから身を投げ出す。
夜風で髪が揺れ動く。
普段なら髪が乱れる事を、少しは気にするところだが、今日ばかりはそれどころではない。
身体と魔力との制御を全霊で行って、20m近い高度を、無傷どころか膝を曲げることさえ無く、着地する。
「『見据えて――』」
「明姉、待って」
変身して広域探索用の魔法を発動しようとしていた明を止めたのは――
「美勇……? どうして、ここに? いえ、今は良いわ。鳴音がどこに行ったのかが分からないの。探すの手伝って貰って良いかしら?」
「うん。その件で来たんだ」
蕗原 美勇――彼女のその発言で、明の警戒レベルは一気に上がる。
必要性があれば、排除するつもりで。
「どういうつもり……?」
「鳴音に頼まれたの。今日、明姉を足止めして欲しいって」
言いながら、少女は背負った鞄から、ある二つのものを取り出した。
一つは帯状のもの。
もう一つは、俗にガラケーと呼ばれる、少女の言葉を借りるならお守りだ。
「……そこを、どきなさい。さもないと」
「退けてみてよ。セージゲイズさん?」
明の舌打ちが夜闇に消える。
美勇は左手に持った帯状のものを、投げるように身体に巻き付ける。
明はたったそれだけで、それが何か理解した。
美勇や鳴音に付き合って、昔見ていたから。
それはバックルだ。
美勇は、バックル正面のボタンを押下。
起動音に連続して、待機音が響き始める。
ガラケーを片手で開けて、ボタンを押す。
瞬間、画面上から突起――鍵――が飛び出す。
それを肩辺りまで、持ち上げる。
この間、僅か2秒。
口上は全くの同時だった。
「『見据えて包め』」
「『極光チェンジ』」
静かに仄かな光に包まれ、弾けたそこには白衣を纏った一人の少女。
露出した鍵をバックルに横から差し込んで捻る。輝きが周囲を包み込み、炸裂した先には黄色を基調とした魔法少女然とした格好の少女。
「見識の魔法少女 セージゲイズ。大人しく退きなさい」
「黄煌の魔法少女 ファルフジウム。友の今を照らす為、私は今ここに居る!」
かたや装飾華美な本を構えて、もう一方は腰に佩いた柄の大きな直剣を抜き放つ。
互いに魔力を滾らせて、両者がぶつかりあった。
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