黒 Ⅱ
電光が荒れ狂い、金髪の女を焼く。
女を殺すつもりで放たれた雷撃は、けれどほんの少しだけ離れた所で止まる。
「こうしてお前と対面して、改めてこの世界は面白いと感じるよ」
「私達の世界では、特定の激情によって魔力を変質させる特殊な魂の持ち主以外は、魔力に色は無い」
朗々と語る声は、雷鼓が響き渡る中でさえ、エレクの耳にしっかりと届く。
恐らく目の前の女――前世のエレクであるダイナと呼ばれる少女の母親にして、当時の魔族最強の存在――の魔力特性の影響だろう。
『空間』とでも言うべきその力は、魔法では本来不可能な空間への直接干渉を可能とするもの。
空間転移や空間を断つ事での絶対防御など使い方は多岐に渡る。
その膨大な魔力によって、ただの声ですら魔力の影響を自然と受けているのだ。
「だからこそ、私達のような存在の魔力は色彩魔力と呼ばれた」
色彩魔力。
先程女の話でも出ていたが、特殊な魂でしか生成できない魔力。
特定の属性に性質が偏りきっており、他属性は性質が近いもので無いと、同レベル帯の魔法使いの平均の半分の出力を出すことさえ困難。
「この世界の人間は皆色彩魔力を持っているのかと最初は目を疑ったものだ。…………実際には異なったがな」
言葉を無視して、幾度と無く雷撃が放たれるも、女の防御は小揺るぎもしない。
(……空間断絶の対処法は、至ってシンプル。大量の魔力でゴリ押すか、魔法を解いた瞬間を狙うか)
女の話には一切耳を貸さず、エレクは前世の記憶と今の経験から突破口を探し続ける。
防御の対処法はあっても、今の所実行は不可能。
幾ら記憶と共に魔力も戻ってきたとは言え、当時から魔力量では負けていた。
(だから周囲を囲んでいる結界と防御での消耗を待っている…‥けど、結界での魔力消費がやけに少ない)
未だ一歩も動いていない女の足元に、エレクは目を凝らす。
色彩魔力保有者の魔力に対する感受性は、普通の人間とは文字通り桁が違う。
それを魔力制御に落とし込めるかは当人次第だが、魔力感知に関しては圧倒的な次元である。
濃密な魔力である程度隠れてはいるが、隠し切れてはいない。
巨大な魔石、それが結界の魔力を補っている。
だが、その魔石は勿論『空間』の魔力を生成できない。
だからこそ、結界に穴があると予想出来る。
(普通に考えて、強度面はそのままのはず。……相手の目的は私の魂の奪取だろうし、逃げられないようにはしているはず)
エレクの魔法火力は、女もよく知っている。
ならば、強度で妥協はしない。
けれども、それだと使われる魔力量に説明が付かない。
「この世界の人間も、元々の魔力は無色だ。それは魔力の多寡によるものでは無い。……では、何か? 単純だ。一般的に変身アイテムと称されているものだ」
女は語る。
変身アイテムにはある者が初めて起動する際に、当人の適性に沿う形に、魔力を変質させるのだと。
けれど、そんな事よりも、自身の思考よりも、エレクには看過出来ない部分があった。
「……また人を実験台にしたのか、ラウム……!」
「以前は今際の際にさえ、母と呼んでいたというのに…………。悲しいな、ダイナ」
「その名で呼ぶな! 私はエレクトロキュート――」
激昂に駆られるまま、エレクは今までで最大の雷撃を放つ。
耳を劈く神鳴りは、けれど、女の言葉を遮るには足りなかった。
「神崎 鳴音では無く、か?」
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