黒 Ⅰ
――我が愛娘、ダイナ、今から示す場所に来い。
空虚に感じられる女性の声、それが少女の恐怖を呼び起こす。
過去に喪った仲間達。
今失うかもしれない家族達。
脳内を数多の死体が埋め尽くす。
屍山血河を踏みしめて、黒金の女は冷酷に嗤う。
(――例え、死んだとしても…………)
「私が殺す…………!」
少女は一人、殺意を練る。
既に、家族を裏切る形で、外に出てきた。
友に酷いお願いをしてきた。
最早、後戻りは出来ない。する気もない。
満開の花畑に蔓延る害虫らしく、同じ蟲を殺す。
街を出て、指定された場所へと向かう。
そこには濃密な魔力が漂い、殺人的な圧力を孕んでいる。
けれど、少女は一切気にする素振りもなしに、脚を踏み出す。
少女の瞳には紫電が宿り、頭髪も所々が青紫に変色している。
脚を踏み出した瞬間、少女は悟った。
囲われた。
少女を含む半径1km程を覆う大規模結界魔法。
『空間』の魔力による空間断絶式結界、それを打ち破れる者は現状の魔法少女にはろくにいない。
これから成長したら、まだ可能性が無いわけではないが。
この規模の空間干渉魔法の維持は、流石の最強の魔族でもそう長くは続かない。
そこが勝利の鍵となるだろう。
「――来たか」
「……………………」
そこに佇んでいた金髪の女が顔を上げた。
一切の感情の伴わぬ視線が、少女を貫く。
「どうだ、人間に生まれ変わって、生きていた感想は?」
「…………魔族と何ら変わらない。当たり前だろう」
――そうか……。
女は言葉を口の中で転がして、魔力を滾らせる。
黒金の魔力が爆発的に周囲に広がる。
少女もそれに倣う。
「『彼方まで轟け』」
黒紫の紫電が零れ落ちる。
その金髪は目の前の女と良く似ている。
金髪の一部は青紫色に染まり、瞳は同色に染まりきっている。
黒衣がバサリと空を打つ。
「エレクトロキュート・イグジスタント。…………お前を殺す」
魔法少女とは決して名乗らない。
自身は花では無いのだから。
両者の必殺が最初から牙を剥く。
音の無い空間干渉と結界外に音が届かぬ紫電がぶつかりあった。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




