魔の侵食
「いやぁ……、ショッピングモールが無くなっているとはね…………」
「「…………」」
衣類や雑貨などを取り扱っている大手百貨店の入り口付近にて、明、鳴音、美勇の三人は何とも微妙な雰囲気で佇んでいた。
幼馴染み三人でショッピングと洒落込もうと画策して、他二人を誘っていた美勇だが、ここで一つ問題が生じた。
既に、彼女が発したことだが、数ヶ月前に街唯一と言っていいショッピングモールがものの見事に完全に倒壊した。
加えて、そこで魔人ダイバーと魔法少女達の戦闘がされたために、ただの倒壊よりも質が悪い。
なお、明、鳴音の二人はきまりが悪い。
理由は単純。
ショッピングモール跡地に、大きく陥没して、所々がガラス化した大穴(エレク作)やその他いくつもの球状のものでふっ飛ばされた跡(主にセージゲイズ作)などがあるのだ。
瓦礫を退けて、土地を整備する過程でそれらを埋める作業が挟まり、いくら科学技術が30年前から比べても発達していると言っても、限度がある。
ショッピングモールが再建するのは相当に先だ。
そもそも街毎にショッピングモール等の大規模施設の担当企業が半ば決まっている。暗黙の了解というやつだが。
そのせいで、現状街にそのような施設は無い。小さなものはいくつかあるが。
「――まあ、魔人だっけ?そいつのせいだからしょうが無いんだけどさ……。もっと早くこっち戻ってくれば良かったかな」
「そう自由が聞くものでもないでしょうに……」
(もっと早く、ね…………)
明は突っ込みつつも、思考は止めない。
ある可能性。
殆ど確定しているような事だが、それでも信じがたい気持ちと真実だろうと考えている理性が同居している。明には珍しいことだ。とは言え、親しい人間が絡んでいる時点で、明は理性だけではいられないが。
「気にしても仕方がないし、今日は色々見て回ろう!…………とは思うんだけどさ、鳴音、本当に大丈夫? 休む?」
沈みかけた意識を半ば無理矢理に引き上げて、すぐに視線は別の方へ。
鳴音の目元にははっきりと隈が見え、足取りも少しふらついている。
本人が大丈夫だと言うから、一応店まで来たは良いが、そろそろ本当に休ませたほうが良いかも知れない。
「鳴音、触るわよ」
「……うん…………」
額に手を当てて数秒、明は安心したように手を離した。
「体温は36.7℃ね。熱は無いようで良かったわ」
「手で熱を正確に測れることにツッコんで良い?」
「慣れと感覚よ」
なお、厳密には慣れと感覚と魔力だ。
明は解析及び火に対する適正を持っている関係上、熱量や温度の正確な把握が最も得意だったりする。
それが必要になることが、戦闘中は特に稀であるため、普段は目立たないが。
正直な話、前線に立つより鍛冶師の方が向いているとさえ言える。
丁度身体強化も出来ることだし。後は当人の熱量だけである。
「――づっ……!」
痛みを覚えて、鳴音は動きの鈍い身体で右目を抑える。
明は鳴音の身体を支える一瞬前に、少女の目元の光を視認した。
一瞬動きが止まったものの、美勇がその穴を埋めるように、肩を抱きとめる。
(今のは……?! いえ、それどころじゃない)
治療用の魔法が基本的に外傷用であり、症状も把握しきれていない為に、魔法でも手の施しようがない。
それを悔やむように、唇を噛みかけて、思考を放棄した。
兎も角、休める場所を探すことにしたのだが――
「ここフードコート無いし、ベンチすら見当たらないんだけど……!」
「そもそもフードコートは煩すぎて、あまり連れて行きたくないわ。近場に喫茶店あったから、そこに行きましょう」
今彼女達がいる百貨店から100mも離れていないその場所に向かおうとして、明と美勇は一瞬、ほんの一瞬だけだが、鳴音から目を離してしまった。
今まで支えられていた体調不良の人間が急に支える力が減ると、どうなるかは自明であった。
ぐらり、と倒れ込む。
だが、少女の肢体が地面に打ち付けられる前に、間に合ったものはいたのだ。
「危なかったわね。目を離さないようにした方が良いわよ?」
両腕に買い物袋を下げたまま、その人物はまるで母親が子供を諭すような口調でそう言った。
黒髪をショートに切りそろえた、実際の母。
その顔立ちは、明のよく知る人物――結――にそっくりだ。
彼女が成長したらこうなると言えるほどに、そっくりな女性――加集 香織、娘との買い物でテンションのままに買いすぎた一児の母、その人である。
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