紫紺の痕跡
一人の少女が夜の街を駆け抜ける。
彼女の全身を青紫の光――微かな紫電――が覆い、少女の一歩一歩を支える。
街を出てから、付近の森の深くにて、瞳からも小さく紫電が溢れて、あるものを頻りに探し求める。
「――イナ、ここだよ」
「ロディ、久しぶり。皆んなは?」
「久しぶりの友に別の仲間の事を聞くのかい?」
誂いを孕んだ視線や声音、数カ月ぶりの友との邂逅を、イナと呼ばれた額に角の生えた少女は心から楽しんだ。
彼女らは、異種族間で形成された友人グループのメンバーだ。
なお、ロディと呼ばれた青年は人間だ。
グループがいるのは魔族領ではあるが、他の種族も一応は暮らしている。
扱いを問わなければ、だが。
基本的に魔族は肉体的・魔法的性能が他のどの種族を凌駕する。
その為、他種族への差別は激しい。特に力のある魔族はその傾向が強い。
例えば、どこかの母親のような。
そう言った事情から、イナがグループの下を訪ねた時は大騒ぎになった。
魔族の中でもトップクラスの力を保有する存在が、世間一般的に是とされないグループに加わった。
それがどれだけの事か想像に難くない。
兎も角、仲間にも恵まれて、最強クラスの少女にとって彼らとの時間は、本当に宝物のようで。
だからこそだろうか。
__________
「――ロディ、エレナ、ジェフ……、皆んな何処だ?!!」
イナの絶叫のような悲痛な叫びが空しく木霊する。
だが、答える声はそこには無い。
指定された集合時間、場所に来てもそこに彼らはいない。
紫電を撒き散らすように目を凝らしたとしても、濃密な魔力で覆い隠され、彼らのそれが見通せない。
薄々原因は分かっていた。
「……………ィナ……、逃げ、ろ…………」
「――ロディッ、死ぬなよ…………!」
見るも無惨。
最早虫の息、彼の生は後数分も保たないだろう。
イナの言葉もそれが分かっているからか、些か無理やり言っているだけに聞こえる。
彼女に治療魔法の心得は無い。一切無い。
「……奴が、……みんな、を――――」
「……ああ、分かっている。済まない、……墓は作る」
歯を食いしばり、生涯の友の随分と軽くなってしまった身体を地面にしっかりと置く。
周囲には他に死体は無かった。これで、敵の位置はおおよそ分かった。
目指すは、勿論元凶、自身の母親のもと。
あの女は、自身以外を道具などと同程度にしか思っていない。
恐らくイナの魔力に触れた他種族を調べたくなったのだろう。
女と同様に、特異な魔力をもつイナの友を狙って攫ったということはそういう事だろう。
一人の少女は決着を付けに行く。
決して敵わないと分かっているのに。
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「…………ああ、またこの夢か」
少女は一人、薄暗闇で目を覚ます。
恐ろしくも、知らないはずなのに懐かしいその記憶を。
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