分析解析
「大分進んではいるけれど…………」
「ですね。解析まではおよそ95%完了していますね」
多くの人間がパソコンや試験管やらに向き合っているその空間において、ある二人は最近の研究成果について話をしていた。
彼らがいるのは、魔法局の地下、そこに存在する巨大な地下空間にある魔法研究用の施設である。
大体の魔法局支部に存在するその研究施設は、普段は魔物の生態や性質の研究を主にしているのだが、そこは少し前に舞い込んだある物の研究が盛んになっていた。
他の研究が疎かになりかける程に。
そこでメインとなって件の物を解析しているのは、二人の女性だった。
否、その内一人は少女と言うべき年齢だ。
名を眺野 明。またの名を、見識の魔法少女 セージゲイズ。
視認することで様々なものを解析することに長けた魔法少女である。
彼女ともう一人のメイン格である研究室の責任者である女性の目の前には、件の物――魔人らが使っていた武装の解析結果のデータがあった。
「魔石自体は、強力なものではあったけれども特に変わった点は無し。術式の方は、一つが物体の硬化。もう一つが魔法の加速か」
「セージゲイズさんの『術式魔法』でしたっけ? それとの関係はどうですか?」
武装のサンプルは二つ。
一つ、アインス ダイバーと名乗った男が使用していたガントレット。
埋め込まれていた魔石に刻まれた術式は、硬化。
こちらの基本素材である金属は強度は然程では無いものの、魔力の伝導性能に優れたものだった。
一つ、ツヴァイ シャーロットが使用していた長杖。
魔石に刻まれていた術式は、魔法の加速。
こちらの素材も、強度などよりも魔力の伝導性に優れるものだ。
「どちらの術式も私が、私達が普段使用しているものと作りは同一でしょう。ですが、術式は分かりましたが、魔石への刻みつけ方が分かりませんね」
「こちらで解析したところですが、魔力が通る路のようなものが形成されていました」
セージゲイズの言う私達、則ち魔法少女達が使う魔法と成り立ち方は等しい。
だから、魔法術式の刻みつけ方さえ分かれば、魔法少女達用の装備を量産することも夢ではない。
だが、それが皆目見当も付かない。
「路、ですか…………。魔石を頂いてなんとか刻めないか試してはいるのですが…………」
「確か魔石の表面に術式を描いても、魔石上で魔法が発動するだけなのでしたか」
最も術式が簡単な『直接火力変換』を使用したところ、魔石の表面から数メートル単位の火柱が上がって、明は当時本当に慌てた。
そして、魔法の選択を誤ったと悟った。
魔力を火に変換するだけの魔法だが、飛ばしたり形を維持することに魔力を使わない分、純粋な火力だけで見れば最高火力なのだ。
それを魔力の塊とさえ言われるものの近くで発動したら、どうなるかは自明も良いところだ。
ちなみに、その話を偶々訓練室に集合していた他三人の魔法少女達に伝えたところ、もれなく全員からの
此奴は馬鹿なのか? と言った視線が明の胸に突き刺さった。
視線があれ程痛かった時は他に無いと少女は語る。
当人ですら馬鹿かと思ったので、余計に。
「今後は、路の形成を試してみます。それでも駄目な場合は…………」
「今あるものを活用しましょうか。ここにある二つは幸い、家の魔法少女との相性が悪くないですし」
研究はまだ途中。けれど、彼女達が歩みを止めない限りは、あるいは――
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