紫紺と非常識
雷鳴轟く荒野にて、女性らしき二人が向かい合っていた。
各々の引き出し得る限界の殺意を放ちながら。
「母さん、もう止めにしよう。あの人達は、私達と変わらないじゃないか」
「そうだな。奴等と私達魔族に身体構造的差異は、少ない」
もう一方の女性を母と呼ぶのは、紫紺の髪と眼の者。
彼女の提案、元い強迫じみた発言に対して、落ち着いて返答するのは薄汚れた金髪の者。
「――だったら、どうして彼等を実験台にした……?!」
「単純だ。奴等は、私達と似たカタチをしただけの下等生物でしか無い。ならば、モルモットとして有効活用すべきだとは、思わんか?」
まるで、聞き分けの無い子供に言い聞かせるように言う。
その口調が、行動が、その他全てが、紫紺の者の怒りを加速させる。
「巫山戯るな! 彼らは私達と同じヒトだ。何が、下等生物だ! 何がモルモットだ! 彼らを下等生物と言う母さんの方がっ、よっぽど下等じゃあないか!!」
その怒りに呼応してか、天の霹靂も激しさを増す。
「………………そうか。残念だよ」
ぼそりと呟き、金髪の女は魔力を解放した。
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「――おっ邪魔しまーす」
休日、眺野家に美勇が訪れた。
朝八時に。
「……連絡ぐらい寄越しなさいよ…………」
出迎えるのは、明。
時間を考えろと言わんばかりのジト目。
この幼馴染みの予定時間などよりも矢鱈早い習性は、何年経っても直るものではなかったらしい。
下手したら、悪化している。
「ちなみに格好から何となく分かるけど、明姉出かける予定だった?」
美勇の言及にあった通り、家にいる時は常にジャージ生活という中々な格好の明は、朝から外出用の服を着ている。
それは、彼女にこれから予定があるということで――
「連絡寄越せってそういうことかぁ……」
「時間的にも、せめて一度アポ取りなさいって言ってるのよ」
呆れを含んだツッコミが空しく空気に溶ける。
実際に、彼女達は幼い頃から、両親らが必要な時に、朝早くから預けて預けられての関係であったために、いざ会うとなったらかなり早かった。
だが、今は決してそうではない。
明が言いたかったのは、こういう事だが、美勇には伝わらなかったようだ。
伝わっていて、惚けた可能性も決して確率的には少なくないが。
「……はぁ、お茶は出すけど、私はすぐに行くわよ?」
「元々、用事があるのは鳴音にだし、大丈夫だよ」
仕方が無いとでも言うかの様な態度ではあるが、明は美勇をリビングに通して、手早く紅茶を淹れる。
カップを美勇の手元に置いた時に、美勇がこれ見よがしに手を出した。
その手は、ある形を示している。
「明姉の用事って、これ?」
その手の形は、俗に彼氏を示すものだった。
それを認識した途端、明の口から大きな溜息が出てきた。
「無いわよ。バイト先でちょっと調整しなきゃな事があるのよ」
「へぇぇ、バイトかぁ。――んじゃあ、ガンバ」
「はいはい…………」
調子の良い奴。
そんなことを言いたげな明は、家を後にする。
「……みゆ姉、早い…………」
明と入れ替わるかの様に、鳴音がリビングに訪れた。
ボサボサの髪のまま、眠そうに目元を擦りながら。
「やっほ、鳴音。早いって言うけど、約束通りではあるんだよ?」
そうだけど、そうじゃ無いだろう。
明にそっくりのジト目が、美勇を刺す。
鳴音と美勇の約束では、午前中に眺野家に、となっているので、美勇の行動は完全には非難できない。
幾ら馴染みの家であろうと、些か非常識だが。
彼女達は、早々に鳴音の部屋に引っ込んで、存分に休日を満喫した。
二人は、昔から特撮ドラマのファンであり、今回の約束もそれ関連の話をする為だった。
元々は、美勇の趣味で、鳴音に対する布教活動が成功した結果なのだが、今となっては鳴音の方が詳しくなっていた。
ところで、鳴音の部屋は、訳あって眺野家にある。
それは、昔からなので、疑問を挟むものはその場には居なかった。
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