何処かの天
刃が振るわれ、炎が地を舐める。
誰もが殺意を以て、戦う。
焼け焦げ荒廃した大地を数千、数万の兵士が駆ける。
現在争っているのは二つの軍勢。
方や、額に角を生やした浅黒い肌のヒト。彼らの軍旗は、黒地に赤で国章が描かれている。
もう一方は、白人のようなヒト。彼の方には、白地に青で同様に国章がある。
両軍は、一切の遠慮も容赦も無く、ただ殺し続ける。
戦場が膠着状態になった頃に、暗雲が立ち込み、迅雷が暗闇を駆けた。
一際大きく雷鳴が轟き、白の軍勢を撃った。
一度鳴り始めた霹靂はなおも白の軍勢に降り注ぎ、その度に死体の山を築き上げる。
お返しとばかりに、白の軍勢から数多の魔法が放たれる。
しかし、それらは一切の意味を成し得なかった。
あらゆる魔法がピタリと黒の軍勢の前方で止められた。
見えない壁があるかの様に、全くの同平面上にて、止められたのだ。
敵味方問わず戦場の全ての人々が、雷鳴と不視の壁を成した二人の魔法使いを見た。
雷鳴の者は、青紫の髪に同色の目。周囲に紫電を瞬かせながら、冷静に戦場を見据えている。
壁の者は、黒金の髪に同色の目。気怠げながら楽しそうに戦場を俯瞰している。
この二人こそが、黒の軍勢の切り札。
その名は――
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「…………さてと、やろうか」
夜闇を貫くような魔物出現の警報が鳴り響くなか、ビルの屋上には人がいた。
少女と言って、差し障りのない年齢の彼女は、黄色がメインのフリルの多い服に身を包み、鍔が大きな一振りの剣を手にしていた。
眼下には、警報の原因である魔物が一体。
大きさや元となった動物を粗方確認し終えた彼女は、ぴょんと実に軽く、ビルから飛び降りた。
普通の人間なら、ビルから飛び降りるなど言語道断。待っているのは、死のみである。
だが、銃刀法が存在する日本に於いて真剣を手にしている者が普通であるわけが無い。
トン、とこれまた軽い音だけを残して、少女は地上に降り立った。
「黄煌の魔法少女 ファルフジウム、ただ今参上。ってね」
彼女は魔法局に所属していない魔法少女の一人。身分上は一般市民だが、能力的にはそれらを凌駕する。
抜身の剣を構え、鮮やかな黄色の魔力を込める。
込めれば込める程に、黄色の輝きが増していく。
それも、他の魔法少女ではあり得ない程に。
実際にファルフジウムが消費した魔力以上の魔力を剣は纏っている。
「――――――」
細くも強い魔力を感じ取ったが為に、その時より魔物のターゲットはファルフジウムになった。
だが、遅い。
「――ふっ…………!」
剣と同様に魔力を込めに込めていた脚で思い切り地面を蹴る。
瞬間、圧倒的な加速を見せる。
一瞬の内に、彼我の距離を零にして、彼女は一度、ただ一度だけ剣を振るう。
黄の閃光が仄白く光芒を残した。
一閃の後、ファルフジウムは些か大げさに血振りを行い、抜身のままに腰のアタッチメントに剣を落とし込む。
「――魔法局に連絡いれないとなぁ……。これ面倒くさいからどうにかならないもんかな?」
愚痴を溢しながら、少女は現場を後にする。
その歩みは決して早くない。
年齢的に次の日は学校があるだろうし、深夜と言っても問題ない時間帯に外出しているのは、色々ともんだいがある。
「補導は面倒くさいよねぇ。…………親は問題ないけど」
誰に聞かせる訳でもないが、少女の独り言は絶えない。
それが寂しさを紛らわせようとしている気がして、彼女は自嘲したように笑みを漏らす。
ぐぐっ、と背を伸ばして、一拍脱力する。
「早く帰って寝ないとね。心配掛ける訳にもいかないし」
今まで散々心配させられてきたし、心配させてきたから今更かな。
彼女の転がすような声は、夜闇に紛れて消えてった。
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