少女の推測
「――ご、ごちそう、さまぁ…………」
これから査問会まがいのことに、巻き込まれるのがほぼ確定している結であったが、既に満身創痍も良いところだ。
普段の二食分を無理やり詰め込んだら、誰だってそうなる気がするが、今回の問題はそうじゃない。
必死にカツ丼を嚥下しながら、箸を少しでも止めると、それだけで睨まれる環境下で、精神を擦り減らさない人間など中々いない。
「はい、お粗末様でした」
「……美味しかったけど、容赦が欲しかった…………」
「――ん?」
焦り気味に、何でも無いと首を振る。
その動きが激しかったのも相まって、胃の中身が逆流仕掛ける。
「――ううっ…………」
「やりすぎた?」
入れすぎたようだ、と反省になっていない反省をしながら、謡はお茶の用意に取り掛かる。
ここからは、話が長くなるのだろうから。
「まあ、流石に、な」
「結ちゃんが話せるようになるまで、ちょっと待とうか……」
独り言のように呟いた謡の言葉に返答を返しながら、割と気の毒そうに結を見る陽子。
和泉家に、なんとも微妙な空気が流れた。
_______________
「――それで、結ちゃんはなんで私達を避けてたのかな?」
「……………………」
言えない。
例え何があろうとも。
特に謡には。
「なぁ、私達がなんかしたのか?」
「………………してない」
言えない。
己の中の、希望と絶望がぐちゃぐちゃに入り混じったものなんて、誰にも。
けれど、謡、陽子の二人のせいでは無い。
だから、否定はするが、これを続けていては段々と近づいてくる事になる。
「じゃあ、何だよ?」
声音から、苛立ちがダイレクトに繋がってくる。
普段からの荒い口調も、より顕著になっている。
「陽子ちゃん、ストップストップ。……結ちゃん、私達は結ちゃんを責めたい訳じゃないよ。ただ、悩んでいるように見えたから、手助けをしたいんだ」
私達には、言えないのかな……?
謡の優しく言い聞かせるような声が、結の心に染み渡る。
だからといって、安々と話せるものではない。
「ごめん…………。まだ、私にも分からないんだ。まだ、確証が無い。だから、言えない」
結は、それきりで帰っていった。
流石に、空気的に居づらかったのだろう。
少女が帰った後も、陽子は和泉家に留まっていた。
「そういや、魔人関係が結の悩みだろうって言ってたけど、具体的にはどんなだと思ってたんだよ?」
「ええとね、陽子ちゃんは、魔人って何だと思う?」
陽子の質問に、謡は質問を被せた。
怪訝な顔をしつつも、律儀に答える陽子。
「人形の魔物。それが人間かどうかは未だ発表は無い……ってとこか?」
「うん、大体そんな感じ。それで、多くの人としては、魔人は魔物化した人だと思ってる」
はっ、と陽子は何かに気づいたように細く息を漏らす。
「――じゃあ、あいつ人を殺したかもってことで悩んでいんのか?」
「それはある気がするけど、多分、それだけじゃない」
謡曰く、結が人を殺したかもと思い悩むのなら、7月の終わり頃だろうと。
今頃になって、急にそうなるとは考えづらい。
「そりゃあ、確かに」
「それにしても、ただの人って言うのは、ちょっと難しいかも知れないんだ」
魔物の出現の仕方は、割合と単純だ。
魔力が結晶化して出来る魔石を核とした魔力の塊、それが魔物だ。
人を含む多くの生物は、体内に魔力回路と呼ばれる器官を得て、魔力に適応した過去がある。
それがある限り、体中で魔力を循環でき、一箇所に大量の魔力が留まり続けることが無いために、魔力が魔石になることは無い。
それは逆に、魔力回路を持たない生物は魔物化するということだが、今はそれは置いておく。
兎も角、質等を問わなければ、全員が魔力回路を持つ人間が魔物化することはありえない。
だからこそ――
「人は魔物化するとは思えないから、ね。少なくとも自然に、ってことは無いと思う」
謡の表情は、はっきりとした口調には相反して、どこか不安げだった。
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