カツ丼
「…………これ、どういう状況?」
結は、日曜日、詳しくは陽子と謡の二人が出かけた次の日に和泉家に呼ばれて、やって来た。正直な話、断りたかったが、謡と陽子の双方から大量に送られてくるメールの嵐に根負けする形で、本日は遊びに来ていた。
やって来たのは良いのだが、そこで待っていたのは、読書用と思われる小型の蛍光灯が置かれたテーブルへの実質的拘束だった。
全くもって状況を理解できず、結の脳内をクエスチョンマーク(別名:インテロゲーションマーク)を埋め尽くす。
「聞きたいことがあったら、これだろ?」
「待っててね、今カツ丼出来上がるからね」
結の正面には、口元を隠すように手を組み机の上に置いて、無駄に真剣な表情をした陽子がいる。
ついで聞こえたのは、キッチンにいる謡の声。発言より、作っているのはカツ丼。
なんとなく、刑事ドラマの取り調べのシーンがやりたかったのだろうと、理解したは良いが、結としても言いたいことがある。
お昼ご飯一緒に食べようと言っていたから、それがこのような形になったことに、なんとも不思議な感覚を覚えながら、結は口を開いた。
「カツ丼って、取り調べを始めてからかなり時間が経ってから出るものじゃないの? そもそも取り調べなんてされる覚えは無いんだけど?」
カツ丼を、と言うか、食べ物を出すことは、自白を誘導することに繋がるために、禁止されている。それが理由であるのだから、最初から出すのは、禁止の有無に関係なく、意味が無い。
兎も角、やましいことなど無いと言う結に対して、二名の半眼――俗に言うジト目が突き刺さる。
「――じゃあ、夏休み明けから私達を預骨に避けているのは?」
「今日も最初は、断ろうとしてたでしょ?」
さっと目を逸らす。
やましい事はしっかりあった。
心当たりもあった。
ゴン、と若干の力を込めて、結の目の前にカツ丼が叩きつけ――置かれた。
連続で、パシン、と割り箸が今度こそ叩きつけられた。
見ると、丼があと二つ乗った御盆を手にした謡が、ジト目を継続しながら、真横にいた。
だが、それらの丼に結は強烈な違和感を覚えた。
厳密には、違和感の正体は、結の目の前の丼であって、残り二つのそれと相対的に比較した結果だが。
「はい、陽子ちゃんも」
「サンキュ、いただきます」
「――いや、ちょっと待って」
丼と一緒に渡された割り箸を割って、早速食べ始めようとする陽子を止める。
案の定、空気読めや、といった感じの視線が飛んでくる。
しかし、結はどうしても突っ込みたいところがあった。
「私の丼、大きくない?」
結の前にある丼だけおかしい。
他二人のそれは、最大半径10cmあるか無いかくらいだと言うのに、結の前のものは、15cmは超える。高さの方も、1.2倍位にはなっている。
中身は、三つともしっかりと入っているために、結に渡された分は、二人のそれの2.5倍オーバー。
結は食べられる気がしなかった。
というよりも、その量のカツ丼を食べ切れる人の方が少ないまである。
結としては、大きいことへの疑問と食べきれないことを暗に示していたのだが――
「――え? 文句あるのかな?」
魔法少女として日夜戦っている結でも、ちょっとビビるほどの威圧感が飛んできた。
口元は笑っているかの如く弧を描いているが、目は一切笑っていない。
それどころか、結を射殺さんばかりに鋭利な視線が結の心に突き刺さる。
「――あ、お残しは許しませんからね」
更なる絶望が結を襲った。
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