失敗と現実
「制度はありがたく使わせて貰ってるよ」
「だ、だったら――」
「でも、魔法局には入らないよ?」
食い気味に魔法局への勧誘を試みるガルライディアであったが、ファルフジウムに即時拒否される。
これには、苦笑を浮かべる他ない。
というかどうしようもない。
「ごめんね? でも、ちょっとまだ気になることがあってね……」
「気になることですか?」
ガルライディアが聞き返した瞬間に、しまったとでも言いたげに顔をしかめるファルフジウム。どうやらあまり踏み込まれたくない部分らしい。口を滑らせたのは、彼女であるが。
ガルライディア的には、ただの興味本位なので、答えないのならそれで良い。
「――まあ、兎も角、話は終わりってことでいい?」
「はい、すみません。引き止めてしまって」
「いいのいいの。あんまり他の魔法少女と話す機会ないし」
ぽんぽん、とガルライディアの頭を撫で、ファルフジウムは跳躍。
夜闇に黄の光芒を残して、ガルライディアの前を去ったのだった。
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「――所属外の魔法少女、それもある程度の実力あり。……となると、他の街から来たのかしら?」
「名前も言い慣れていたので、そうかも知れませんね」
夜も更けてはいたものの、ガルライディアは魔法局に立ち寄り、残業中だった上司である清水 創美に報告をしていた。
創美(と結)の推測では、ファルフジウムは他の街から来た経験者としている。
その推測は正しい。
だが、それでも問題がある。
「移住か、それとも一時的なものか、どちらかしら?」
「すみません、聞けば良かったですね」
魔物の出現により、街同士での移動には大きく制限が出来た。
街を覆う半径10kmの結界の外は基本的に、魔物の巣窟である。
陸・海・空はすべてが生身では到底生きられない世界だ。
各国での貿易にも大打撃だが、それは魔法少女を同乗させることで、ある程度問題なくなった。
しかし、一つの、しかも然程広くもない国での街街間の道に魔法少女を配置するほどの人材がいるわけがない。そうであったのなら、今頃人類の生存圏は現在の数倍では足りないだろう。
そして、街同士を結ぶルートは主に二種類。
陸上の制限の少ないが危険な道(以前で言うところの一般的な道路)と、地下の主に運送業者などが用いる車線の限られた道。なお、後者には、街に入る時に検閲のようなものさえある。魔物出現から暫くの間、政府所属外の魔法少女たちを狙った少女拉致が横行したためだ。寧ろ、それの未然防止のために、魔法局が生まれたのだが、そこは割愛する。
兎も角、旅行などロクに出来ない世界だ。
その状態で、果たして子供が一時的に街を移るかと言われれば、否だろう。
危険な道を強行軍で進むか、大渋滞に巻き込まれるかの二択である。
非公式の魔法少女の素性などは分からないほうが多いが、魔法局としてはデータとして残せるのだとしたら、残しておきたいようだ。魔法局自体への勧誘などもそいうだが、万が一犯罪行為などをした場合の対処が容易になるために、出来る限りの当たりを付けておくのだ。
実際、無国籍の魔法少女なども過去には存在していた。
「よし、一旦直近数ヶ月で引っ越してきた人の情報を洗ってみることにしたわ」
「それが一番可能性がありそうですからね。…………それよりも清水さん」
「何かしら?」
方針が決まったあたりで(結にそれを話していいのかと問われると危ういかもしれない)、結は報告中からずっと気になっていたことを、聞くことにした。
「お仕事中のはずですけど、口調オフで良いんですか?」
「………………」
創美は、怖いくらいの笑みを浮かべた。ちなみに、言うまでもないかもしれないが、目は笑っていない。
「残業中ぐらい、良いでしょう! 結さんも大人になったら分かるわ………………」
「分かりたくないです…………」
なんとも哀愁の漂う雰囲気だ。絞り出すような結の言葉も創美の心を痛めつける。
だから、だろうか。
「大人は皆社会の闇に、分からせられて、くっころ的な感じになるのよ…………」
「??」
小学生に聞かせる話じゃないことを口走ったのは。
結は、こてりと首を傾げる。まるで意味が分からない。
結もそういう方面への興味が一切ないとは言わないが、並以下であるのは否めない。
というよりも、創美の発言を完璧に理解できる小学生などいないと信じたい。
雑談もそこそこに(それでも22時は越えていたが)結は、創美の執務室を後にした。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
創美さんのキャラがどんどん意図しない方向に……。




