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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
黒か花か

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鞄の中身

「ゆ、結。怪我とか、は…………?」


 電柱に直撃するという醜態を晒した結の近くには二人の少女。

 一人は見知らぬ人だったが、もうひとりは結の同僚である神崎 鳴音であった。

 鳴音は、結がガッツリ顔をコンクリ塊にぶつけたのを見たので、かなり心配している。

 ちなみに、内心では「うわぁ……」と思っている。エゲツない程に、綺麗にぶつかったので。


「うん。普通に痛いけど、今のところは大丈夫」

「あれ? 鳴音と知り合い?」


 自身以外の二人に面識があるのが意外だったのか、単純に反応しただけか、少女は疑問を投げ掛ける。

 誰か特定の者にした問いという訳ではないが。


「はい。加集 結です。鳴音さんにはお世話になってます」

「私は、蕗原(ふきはら) 美勇(みゆう)。こっちこそ、鳴音と仲良くしてくれてありがとう」

「……みゆ姉、止めて」


 お前は母親か何かかと、俗に言うジト目で美勇を睨み付ける。

 鳴音の見たことの無い反応に、目を瞬かせる結。


「私は鳴音の幼馴染でね、歳も一個上だから、鳴音の姉貴分的な?感じなんだよ」

「ということは、あか――」


 美勇と明の関係について聞こうとした結の口元を滑りとした生暖かい液体が滴り落ちた。

 不思議そうに手で触れると、指先は赤々と染まってしまった。


「……ああ、血が…………」

「――ちょっ、大丈夫? 電柱での怪我からにしては遅効性が過ぎないっ?」


 妙に落ち着いた様子の結とは対照的に美勇は割と焦っている。と言うか、些か遅いタイミングでの鼻血に困惑気味だ。

 ちなみに、鳴音はティッシュを探して鞄を漁っていたが、結の鞄からポケットティッシュが出る方が早かった。


「……わたしの血って、ドロドロしてたりするんですかね?」

「……結、病院行った、ほ方が良い、かも……?」


 鼻にティッシュを詰めながら、あまり冗談になっていない冗談をこぼす結。

 思ったよりも血が多く出てきて、ポケットティッシュが無くなってしまう。

 一度しまったティッシュを取り出そうとして、やはり時間の掛かる鳴音。


「大丈夫ですよ、鳴音さん。まだティッシュ5袋あるので」


 焦る鳴音を落ち着かせようと言い放った台詞は、見事に美勇ごと鳴音の時を止めてみせた。


「…‥ちょっと待って。ティッシュ多くないっ?」


 たまらずツッコむ美勇。鳴音もその横で首をぶんぶんと振って首肯を示す。


「いえ、予備ですよ? それぐらいはあったほうが便利では?」

「多いわ。多すぎるわ! 何に使うつもりなの、その量?」


 美勇のツッコミが虚しいまでに響く。しかし、結には全く響いていない。


 結は、基本的にしっかりしている方の人間である。

 ハンカチとティッシュは当然として(ここまでは誰でも持っていると言っても過言ではない)、ウェットティッシュ、絆創膏、ゴミ袋としてビニール袋、加えて魔法少女になってからは万が一に備えて包帯なども常に持ち歩いている。


 ただし、しっかりしているように見えて、実際にある側面から見ればそう感じられるが、割と阿呆な子でもある。

 普通、ポケットティッシュの予備(・・)を5袋も持つ人間はいない。もっても2つくらいだろう。

 ついでにハンカチも3枚、ウェットティッシュも3袋、鞄に常備している。

 どこの誰が、そこまでの量を一度に必要とするのか。

 阿呆と言うより、量の間隔がバグっているだけかもしれないが。


「……お守りとすれば、まだ…………」

「鳴音、毒されてる。お守りとは違う、と思う。……いや、私も実際に使い道ない物持っているから、同じ……なのか?」


 必死に結のバグりを正当化しようと試みるが、あまり成果は無い。

 他の魔法少女に比べて、影の薄い結ではあるが、一般的に見れば割と濃い(・・)のであった。



 ________________




「――結っち、メアド交換しようよ」

「良いですけど、その結っちって、なんですか?」


 可愛くない?

 そう言われても、そのセンスが結には分からない。

 連絡先の交換はするが。

 マギホンで交換した場合、魔法少女とばれる要因を作りそうで少し不安だが、そもそも結の所有する携帯電話はそれだけだ。

 承諾はしてしまったし、もう気にしても仕方がないので、結は潔くマギホンを取り出す。


 美勇は、もたもたと鞄を漁っている。中々携帯が見つからないらしい。

 ちょっと、鳴音と姉妹っぽいな、と結は思う。特に身体の動きというか、癖が似ている気がする。


 割合と失礼なことを考えている自覚はあったが、それでも何かしら類似点を見つけると、ほっこりしてしまう。


「――ちょぉっと、待ってて。今見つけたから――」


 美勇が取り出したのは、今は珍しい折りたたみ式携帯、俗にガラケーと呼ばれるものだった。

 金縁にパールホワイトの外装のそれは、結は存在は知っていても実物を見るのはこれが初めてだ。


「あ、これ違う」

「「違うのっ?」」


 ハモる。結と鳴音初のハモリがここで生じた。

 まさか、このタイミングとは誰も思わなかっただろう。本人達も思ってもみなかった。


「いやぁ、ごめんごめん。これは使えない(・・・・)奴。今はただのお守り(・・・)だよ。――こっちだね、宜しく!」

「――あ、はい。……登録は出来ましたけど、お守りってどういう…………?」


 調子の良い人間として、美勇は結の記憶に刻まれた。

 結の脳内での知り合いの印象を一度聞いてみたいものだ。


「ん? お守りはお守りだよ。なにかに使うわけでもないけど、もっているんだ。特に意味は無いよ」


 後に、結はその時の美勇の笑みは少しばかり嘘くさかったと語る。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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