悲報
「はあぁぁぁーー……………………」
大きなため息。それは、一人寂しく帰路についている少女から発せられたものだった。
少女の名は、加集 結。小学6年生にして魔法少女である。
結は、上の空と言った様子で、脚を動かし続けている。
基本的に結は学校からの下校の際には仲の良い者(本人が明確に仲が良いと言えるのは、二人のみだが)と帰るため、彼女が一人で下校することはかなり珍しい。
だが、彼女は今日はおろか、二学期が始まってからずっと一人で帰っていた。
その理由というと、
(言えないよねぇ……。綾生が生きてるかも、なんて……。それに魔人だったし)
魔人の事は、未だ一般市民には秘匿されている。
その情報が出れば確実に大混乱する。隣にいる者が自分を簡単に殺し得るかもしれないなんて事態になれば、社会がどうなるかは想像に難くない。
また、謡や陽子に関しても、魔人のこと抜きに嘗ての友人の生存報告(仮)をする訳にもいかない。
特に、謡には。
(そもそも、私とよりも、うたちゃんは綾生との仲の方が良かったし……)
だからこそ、伝えられない。
しかも、その情報は確定していない。もし誤情報だった場合、一度与えた希望を完膚無きままに砕くことになる。そんなこと結には出来ない。寧ろ出来る人間は少ないだろう。
だが――
「――本物、だった…………」
結の目が、耳が、心が彼女は己の友人、白川 綾生であると訴えている。
確かに、明らかに身体的には異なっていた。厳密には年齢に見合っていなかった。
それでも、口調も、表情の変化も彼女そのもの。
それに、彼女があの時魔人になって身を隠していたのなら、彼女の死体が発見できなかったのも頷ける。
実際に、当時は付近の河川などでも捜索が行われたが、痕跡は殆ど見つかっていなかった。
魔物のいる結界の外で、魔法少女でない人間たちが出来ることなど、あまりないが。
物思いに耽り続ける結。彼女は、そんな状態でも住宅街に入っている。
そこに何があるかというと、街の中心部ではあまり見られないそれが点在する。
「――ふぎゃっ……!」
中々に愉快でコミカルな悲鳴が小さく響く。ついで、衝撃にバランスを崩し尻もちをつく。
肋にいる周囲の人々は何事かと視線を向ける。
ちなみに、結本人にも何が起こったのかは良く分からない。
「……いったぁ、何……?」
結が視線を前方に向けると、そこには電柱が一本佇んでいる。
そして、強かに打ち据えた臀部以外に痛むのは、額と鼻と口。
そこから導き出される結論は――
「私、電柱にぶつかったの…………?」
本人でさえ、いや、本人だからこそ、認識を拒絶する。
人間、まさか自分が歩いていて電柱にぶつかることを想定するものがどれだけいようか。
そして、残念ながら、結のファーストキスの相手は、薄汚れた電柱となったのだった。
香織が聴いたら悲鳴を上げそうな話だ。
「――ええと、大丈夫?」
そんな結に誰かが手を差し伸べる。
事態に困惑気味で、若干引き気味で女性的な声付きで。
「あ、はい。大丈夫です」
すぐに手を取って、起き上がる。
服についたホコリを軽く払ってから、件の女性(仮)に視線を向ける。
すると、そこには黒髪セミロングの中学生程の少女と、もう一人、見知った少女がいた。
「鳴音さん……?」
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
因みに、私のファーストキスは地面でした。




