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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
追憶の母

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追憶を越えて

 自身らを魔人同盟と名乗る膨大な魔力を保有する人型生命――魔人の存在が明らかになってから数日後、夏休み最終日であったその日に、守美子は再度子供園に来ていた。


「お母さん、私はずっとお母さんは強いだけ(・・)だと思っていたよ。いえ、思い込んでいた(・・・・・・・)のよ」


 墓前にて、少女は誰もいない其処に声を掛ける。木漏れ日に照らされて、彼女の表情や顔色は良く分からない。

 けれど、微かな笑みを浮かべている。そのように感じられる。


「でも、それは間違いだった。お母さんは強く在ろうとして、それでも強くなりきれなかった。だから、あの時(・・・)泣いていたんでしょう?」


 少女の脳裏に浮かぶのは、原初の光景。親子が始まった夕月夜。

 弱々しく背を丸め、涙する母親の姿は今も少女の記憶に刻み付いている。

 ずっと頭の片隅にあったのに、直視していなかった、出来ていなかった面影。

 母と自身とを重なって見えて余計に、少女は忘れることは出来ないだろう。


「私も、お母さんも、同じ(・・)だったよ。強く在ろうと、そうでなければなければならないって一人で抱え込んで傷ついて――」


 風に揺られ、木の葉が鳴る。少女が飲み込んだ言葉は誰にも届くことはない。


「前に、お母さんは私の方が心が強いって言ってたわね。でも、違ったわ。さっきも言ったけれど私もお母さんも同じ。誰かに支えてもらえなければ、強くいられない」


 母は、家族に。

 少女は、家族と仲間に。

 お互いの心の拠り所は異なるけれど、その在り方は全くの同一。


「前は、それが嫌でしょうがなかったわ。情けなくて、一人じゃ何も出来ない自分が嫌で……」


 けれど、今はそれでいいと思える。

 仲間がそう言ってくれたのだから。

 家族が、仲間が、大切な人たちが、一緒にいてくれるから。


 だから――


「大丈夫だよ、お母さん。私達(・・)がいるから。この家は私達が守っていくよ」


 新たな、けれど、そのままな、誓いをここに。

 少女は賑やかな家へと戻っていった。

 木の葉が一枚舞い落ち、墓石の上に乗って、今度は風に乗って、そこを旅立った。



 ________________




「――セージゲイズさん、どうですか?」


 人工灯に照らされて、超自然の力の結晶を睨みつける。

 少女の目元を覆う眼鏡は、微かな光を漏らし続けて、数分後、空気に溶けるように消えていく。


「……間違いありません。魔人らが使用していた魔石には、術式が刻まれて(・・・・・・・)います」

「術式……、魔法の情報が記述されているものでしたか?」


 周囲に何人もいる研究員の一人に首肯を返す。


「ですが、私は術式からの魔法発動を行っているのに対して、こちらは魔石に術式を刻むことで、術式の常時発動を可能にしています」


 魔石、それは魔物の核とでも言うべき、魔力の生成や運搬用の器官。

 人間に例えると、心臓と骨髄のハイブリッドが表現や役割として近い。


「街を覆う大規模結界は、魔力の結晶体である魔石を魔力に分解して発動していますが、直接術式を刻む方が効率的……」

「魔石の魔力精製能力は、大元の魔物の魔力量に依存しますので、大規模な魔法が持続的に使えるかは疑問ですが」


 また他の研究員の指摘。彼の指摘は尤もだ。

 実際には、魔物の魔力量が魔石の魔力精製能力に依存するので、逆ではあるが。

 魔石の出力限界を超えた状態で持続的に魔法は発動出来ない。魔石自体に魔力の貯蔵能力があるにはあるが、そんなものは簡単に使い切ってしまう。


「要は、魔法の規模次第ですか。……すみません、術式の解明に付き合って頂けますか?」

「許可さえ取れれば可能です。今すぐ支部長に連絡します。……それと、こちらこそご協力の方お願い致します」


 答えるのは、研究リーダーの立場にある女性。

 互いに導かれるように、二人は厚い握手を交わした。


 そこにいる皆の考えは、ただ一つ。

 強力な魔石に術式を刻めれば、それは魔法少女の助けになるだろう、と。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。


これにて二章も終わりです。

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