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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
追憶の母

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家族の軌跡 Ⅷ

優しき背中は皆を包む(ファミリア・ローカス)』。


 グラジオラスが発動した二つ目の『起源魔法(オリジン・マギカ)』である。

 グラジオラスの背後、子供園のすぐ前に巨大な障壁が形成される。


 黒が障壁を飲み込もうと攻撃を仕掛ける。けれど、揺るがない。

優しき背中は皆を包む(ファミリア・ローカス)』、それは自身の後ろのものを守ろうとする意志の現出。


 移動させることなど出来ない。

 規模を変えることも出来ない。

 そこに加えて、その守りは自身の後方(・・・・・)にしか展開できない。

 更に、規模にもよるが、ただでさえ燃費が悪い『断崖絶壁毀す(ディバイン・プ)白亜の加護(ロテクション)』の数倍の魔力消費量を誇る。はっきり言って、持続的展開など夢のまた夢だ。


 グラジオラスが今回と同規模で展開し続けられるのは、戦闘行為無しだとしても、1分が限度である。

 加えて、現在彼女は、彼女らは、消耗著しい。


 だから、取るべき選択肢は――


「最速で止めるわよっ!」

「リミットは?!」

「20秒!!」


 えげつない達成難度の戦闘が今始まる。……かに思えた。

 少女らが駆け出したその瞬間、暗赤(・・)が黒の中心地に未だ存在するツヴァイを穿った。


「――ッ?!」


 バッ、と音が聞こえる程の速度で、暗赤の発生源に視線を向けるグラジオラス。追って、ガルライディアもそちらに目を向ける。


 そこには、一人の少女。ちょうどグラジオラスと同年代のように見える。

 赤いゴスロリ調のドレスを纏っている。

 彼女の右手には血のような色の槍が一振り握られている。

 彼女が穿ったと思われるツヴァイから際限なく溢れていた魔力は、すっかりと鳴りを潜めていた。

 意識がないのか、落下し始めたが、暗赤の少女がツヴァイを抱き止める。


「……あなたは…………」


 警戒を隠しきれぬグラジオラスの声音。その声を聞き、少女は魔法少女達へと視線を向けた。

 続いて少女は、静かに視線を胸元のツヴァイへと向ける。


「……そう、ツヴァイは殺しは出来なかったのね。少し期待していたのだけど……、でも、まぁ良いわ」


 ――魔法少女を殺すのは、この私だもの。


 小さな、それこそ口の中で転がすような呟きは風にかき消され、意味を成さなかった。

 けれど、その口角は不気味に弧を描いていて、見る者の恐怖を掻き立てる。


「あなたは何者ですか……?」


 先程と同様の省略部分まで含めた質問。

 それに対する返事は、殺意で成された。


「……私の名は、ヒュアツィンテ(・・・・・・・)魔人(・・)ヒュアツィンテ。――魔法少女を殺す者よ。覚えておきなさい、魔法少女(あなた達)は――」


 言葉に一区切りが付いたその時、これまで以上の濃密な殺気がにじみ出る。


「――私達『魔人同盟(・・・・)』が、私が、殺す」


 その異様な雰囲気に飲まれる。

 指の一本も動かせない様子を見て、少し満足げに口元を歪める。


 魔力を右手人差し指に嵌めた指輪に込める。

 一瞬だけ、暗赤色に染まる指輪は、次の瞬間、黒金色の魔力を溢れんばかりに放出する。

 魔力はヒュアツィンテらを包み込んでいく。


「逃げないでっ!!」


 相手の逃走をいち早く悟ったガルライディアは即座に魔弾を撃ち放つ。

 奔る紅。

 けれど、閃光はヒュアツィンテの持つ槍によって掻き消される。

 火が灯ったように穂先が揺らめき、魔弾を悍ましい程の魔力量で強引に打ち消した。

 先程まで、ツヴァイに対してガルライディアが行っていたように。


 ガルライディアのそれは、ツヴァイの魔力制御が拙いからこそ出来たもの。

 魔弾は、制御がまだまだ下手くそであっても魔力特性『収束』の影響で、強度は十分なはずだ。

 なのに、破られた。それほどのことが出来る魔力量など、魔物のランクに当てはめればAランクの上位の中でも、かなりの上澄みである。


 つまりは、ヒュアツィンテはそういう(・・・・)存在なのだ。たった一人で街を壊滅させることさえ可能な、正しく災害のような。

 魔物のような魔力と肉体、そこに人並みの思考力が合わさった結果が、魔人。

 魔人であるヒュアツィンテは、要は膨大な魔力に強固な肉体に、複雑な思考能力を併せ持つ天災レベルと言えるかも知れない。


 しかも、問題はそれだけでは無かった。


「――危ないなぁ、いきなり攻撃しないでよ。()


 魔人らが消える。その時に、ある言葉が残った。

 親しげな口調。その声音は、まるで彼女(・・)のようで。

 ガルライディアは、消えゆくヒュアツィンテに向かって、無意識に呟いた。


綾生(あやみ)、なの……………………?」


 ツヴァイが落とした杖だけが、彼女らがいた証明であるかのように、そこには何も残らなかった。

 激しく捲れ上がった地面と、崩れた子供園が静かに佇んでいた。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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