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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
追憶の母

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家族の軌跡 Ⅵ

 グラジオラスの『唐菖蒲(とうしょうぶ)』がツヴァイの肩口に突き刺さる。

 赤く赤く、仄かに純白を纏う刀身が血に染まっていく。刻まれた血流しが血で満たされていく。


 その光景が脳に焼き付いた瞬間、止まっていたツヴァイの動きは急激に加速する。


「ああああぁぁあああぁぁああっーーーー」


 絶叫。先程までの堂々とした態度は、何処へやら。彼女は、必死の形相で刀身を抜きとろうと藻掻く。

 けれど、グラジオラスがそれを許すわけがない。


 ぐっと力を込めて、更に鋭刃を押し込む。


「――離れ、なざいよぉっ!!」

「断固、拒否させて頂きますっ――」


 グラジオラスが一歩踏み込む。そのまま刃を振り切ろうと身体を捻る。

 瞬間、ツヴァイは、肩から己を袈裟に切り裂こうとする凶刃を掴んだ。


「離れなさいと、言っだでしょうがっっーー!」


 手が切れて血が滲むのも構わずに、強引に押し出して、超至近距離で黒弾を炸裂させる。


 ボバッ、と爆風から白の少女が出てくる。

 両腕の小太刀を一閃。

 黒の爆風を晴らす。


「――ハァッ、ハァッ、……ッ」


 ツヴァイの姿は僅か数秒の間に変わり果てたように感じる。

 綺麗に整えられていた髪や衣服は泥に塗れ、ところどころが破れて、血に染まってもいる。

 更には、余裕のあった表情は、今や殺意に濡れている。


「殺してくれるっっ!!」

「はっ、やってみなさいよ。下賤な者に良いようにやられている魔人様?」

「――――ッ、死になさいっ!」


 グラジオラスの煽りに、瞬間的に魔力が吹き荒れる。

 周囲を黒に染め上げて、なおも膨れ上がる。


『ちょっと、これ大丈夫なやつなの……?』

『……煽りすぎた節はあるわね。その分、相手の冷静さは無くなるから、魔力の浪費もすると思うわよ?』


『念話』にて、焦ったガルライディアからの確認がグラジオラスに届く。

 眼前には、魔力(殺意)を滾らせた血濡れの魔人の姿があった。


(これは本格的にやりすぎたわね……。まあ、後悔は無いわ)


 改めて、二振りの小太刀を構え直す。

 今後のツヴァイの行動としては、子供園よりも魔法少女らを優先して、殺しに来ることが予想される。半ばガルライディアは巻き込まれたようなものだが、それでも、自分たちに向かってくるものだけを狙うのなら、建造物を庇うよりは楽だと考える。


 ツヴァイの周りを渦巻いていた魔力は次第に形をなして、数えるのも億劫な程大量の黒弾が形成される。加えて、そこに込められている魔力量は、以前の2倍近い。

 それほどの魔力を一体何処から引き出しているのか、それは魔法少女たちは分からない。

 けれど、彼女たちのこれからの運命は、この一瞬で決まると言っても、過言ではない。


 ここから、そこは地獄とかす。一撃を貰った瞬間、死が確定しかねない正しく生き地獄。


「死ねええぁぁぁああーーー!!」


 絶叫。悍ましささえ覚えるその魔力。それらは、大群を成して、少女たちを穿つ。


「ガルライディア、防御優先! 生き残ることだけを考えなさい!!」

「りょ、了解!」


 各々が魔力を噴出する。

 魔法少女の象徴である魔法具から、紅と純白が溢れる。


「『連なる白亜』」

「『衝撃(インパクト)』!」


 各自、防御手段である魔法を発動して、第一射を凌ぐ。

 以前はあった多少のインターバル。それが無いにも関わらず。


「――チッ」


 すぐさま、間隔の一切ない雨あられの黒に対して、グラジオラスは突貫を決意する。

 障壁を一瞬だけ、拡大して黒弾を防ぐ。そのまま、障壁を前に高速で動かす。

 ツヴァイに迫る壁。それに追従するのは、先程傷を与えた少女。

 反応しないわけがない。


 バッ、と音が轟音が響く中でさえ聞こえそうなほどに速く腕をグラジオラスに向ける。

 殺到する黒弾。


「――」


 確実に障壁では防御しきれない黒弾に、グラジオラスは一瞬躊躇する。が、再度加速。

 強引に振り切るつもりらしい。


「『散弾(ショット)』!」


 そこに響くガルライディアの銃声。収束魔力弾を用いた魔法が、黒弾をかなりの数無に還す。


(ありがとう)


 口の中で転がして、突撃の最中、小太刀を交差させる。

 眼前の敵を斬り殺すために。

 背に庇う家族を守るために。


 迫りくる黒弾を視界に捉える。すべてが必殺。一撃直激したら、それで最期。

 嘗て無いほど近くに死が見える。


(ああ――)


 ふと思う。戦場には似つかわしくない思考。けれど、グラジオラスはそれを切り捨てることは出来なかった。


(お母さんもこんな感じだったのかしら…………)


 危険がある。けれども、そこに向かわねば、今度は家族が危険に晒される。

 そうだ、そうだった。


(お母さんは、強くない。でも、いつも私達を守りきってみせた)


 心はどこか遠くを見つめているのにも関わらず、身体は黒弾を尽く切り捨てて進んでいく。


「――来るな、来るな、来るなぁ……!」


 なおも切り刻んで進み行く。

 袈裟、逆袈裟、横薙ぎ、縦横無尽に小太刀を振るい、凶弾をすべて一刀のもとに下す。


「私に、近寄るなぁぁああーーーー!!」


 キリングレンジ。一撃、ほんの一撃で殺せる。そんな状況下で、ツヴァイは、限界まで(・・・・)引き出した魔力を、更に爆発させた。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。


個人的事情で、次の更新は10月10日になります。

待っていただけると幸いです。

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